本日の東京新聞の朝刊の読書欄に、批評家平井玄氏への、著作『愛と憎しみの新宿』(ちくま新書)を巡るインタビュー記事が掲載されていた。
ふと読んでみると、昨日と同じ東京新聞大日方公男記者の文章であった。平井玄氏というと、15年ほど前、学生時代にどこかの飲み屋でとりとめもない話を聞かされたような記憶が無きにしもあらずである。あれは、ロフトプラスワンであったか、顔のよく見えない薄暗い空間であったことはかすかな記憶として残っている。
新宿に生まれ育ち、高校時代に全共闘運動に加わり、大学へ。だが、「引き際を逸して党派の内ゲバに追われ、エネルギーと屈託を抱え込んだまま新宿の街に流れ込んだ。そんな若い連中はたくさんいた。六〇年代がはらんでいた闘争や活動の可能性が舞台を大学から街に移して白熱した文化運動が展開されていたのですね」
(中略)
「家業の洗濯屋で働き、文壇バーやジャズクラブの裏口から出入りし、暗い緊迫感に満ちた様子を眺めたのは面白い経験だった。そんな中で、地方から出てきて学歴もなく仕事も続かず街をうろつく若者たちの姿や、元赤線地帯で育った自分の姿も次第に見えるようになった」
正義や理念を独占する前衛でもなく、利潤に邁進する産業の網の目からも逃れて、民衆の中に紛れこんで自らを媒介者とする〈自営労働者〉という自己規定は、そんな実感の後にたどり着いた。