月別アーカイブ: 2009年8月

『余命1ヶ月の花嫁』

TBSテレビ報道局編『余命1ヶ月の花嫁』(マガジンハウス 2007)を一気に読んだ。
乳癌が全身に転移し24歳の若さで亡くなった長島千恵さんの闘病生活を追ったドキュメンタリー番組の書籍化である。主人公の千恵さんの生き方、死に方以上に、娘の最期を看取る父親の姿に感動した。
ネットで調べるとやらせや疑惑の問題が指摘されているが、末期ガンという現実を前にした時、過去は消え去り、人間性そのものが丸裸にされる。亡くなった千恵さんと父親貞士さんの周囲への感謝の言葉が印象に残った。

パンフレット研究:ルーテル学院大学

ルーテル学院大学のパンフレットを読む。
1909年熊本に創設された路帖神学校を起源とし、九州学院神学部を経て、日本ルーテル神学専門学校となり、1964年に新たに東京三鷹市に開設された新しい大学である。総合人間学部一学部の単科大学で、社会福祉学科、臨床心理学科、キリスト教学科の3学科合わせて100名という少人数教育の徹底された大学である。ルター研究では日本の拠点となっているらしい。キリスト教のみの大学だと思っていたが、他の宗教系大学と同様、キリスト教の汎愛主義に根ざした人間教育にシフトしている。
パンフレットの半分以上が、将来「なりたい」職業ごとにページが構成されており、1年次から4年次までの科目が分かりやすい表現で紹介されている。どの学科も選択の幅はあまりなく、一人ひとり顔が見えるクラス必修の授業で4年間持ち上がっていく。
社会福祉士と精神保健福祉士の両方の受験資格を得ることができ、07年度の精神保健福祉士の合格率は100%であり、また社会福祉士の現役合格率も50%を超える。丁寧な指導の賜であろう。

パンフレット研究:慶応大学

慶応大学のパンフレットを読む。
文学部から医学部までの全学部の概要がまとめられているだけのもので、今まで読んだ中で一番薄いパンフレットであった。
他大学のように授業や教員の分かりやすい紹介や就職プログラムなどのカラー刷りのページはなく、ひたすら学問の成り立ちや専門分野の説明が書かれており、読み物として面白かった。
総合パンフレットを読む限り、文、経、法、商、医、理工、看護医療、薬学部と、どこの学部もオリジナリティと教養から専門までの一貫性を持っているので、湘南藤沢キャンパスの総合政策学部と環境情報学部の独自性が埋没している印象は免れない。
法学部のページに、法律学と政治学について、「政治は出来上がりつつある法律であり、法律は出来上がった政治である」と説明がされており妙に印象に残った。法治主義と民主主義の理念を非常にシンプルに表している表現である。

『祭りの場』

林京子『祭りの場』(講談社文庫 1978)を読む。
長崎での被爆体験を描いた表題作の他、被爆した友人を見殺ししたのではというトラウマに囚われ、友人の肉に吸い付く蛆虫が頭の中に巣くう幻覚に苦しみながら亡くなっていく女学生の姿を描いた『二人の墓標』、そして原爆から20年経っても、子どもへの影響や被爆者健康手帳の交付を巡るどたばた、無理解な夫とのいさかいといった「二次災害」に苦しむ母の姿を描く『曇り日の行進』の三編が収められている。

『曇り日~』では、白血病が遺伝したのではと、子どもの出血に過敏になるあまり、鼻血が出ただけでソラ豆大の脱脂綿を固く丸めてつめるシーンが出てくる。そこで、夫はそうした「私」の姿を見て、「ときどき、君は楽しんでいるのか」と尋ねる。「私」は夫に「あなたも被爆してみるといい」と言い放つ。この「あなたも~」の言葉は作中の夫だけでなく、原爆投下から60年以上経た私たち読者の心をぐざりとえぐる。
先日広島で元航空幕僚長の田母神氏は、「核廃絶が即、平和につながるわけではない」と主張し、「唯一の被爆国だからこそ、3度目の核攻撃を受けないために核武装するべきではないか」と呼びかけた。また麻生総理は」「核で抑止しようとする米国と日本は同盟関係にある」と発言し、北朝鮮の核脅威に対抗するため米国の核抑止力が必要との考えを強調している。核兵器廃絶を訴えるオバマ大統領の発言が注目されているが、一方で核の抑止力に期待する世論も強い。
しかし、唯一の被爆国である日本に住む私たちは、年に一度でもよいから、原爆が投下された惨事に目を向け、考えを新たにしていく必要があると考える。

パンフレット研究:大正大学

天台宗大学、豊山大学(真言宗)、宗教大学(浄土宗)が合併して設立された仏教連合大学を前身とし、1926年に大学に昇格した歴史ある大学である。初代学長には、大正自由主義教育運動の指導的役割を果たし、成城学園を創立した澤柳政太郎氏が就任している。当初より文学部と仏教学部の二学部による少人数の大学であったが、1992年に仏教学部を人間学部仏教学科に再編し、宗派色を薄め、人間中心主義を根幹に据える教育を行っている。
表現文化学科と歴史文化学科からなる文学部と、仏教学科、アーバン福祉学科、臨床心理学科、人間科学科からなる人間学部で構成され、それぞれの学科に2~5つのコースがある。そして一つ一つのコースのページごとに「特色」や「こんなことが学べる」「4年間のステップ」「学びのサポート」「こんなに面白いことがある」「本コースの活躍フィールド」「取得できる資格」などが分かりやすくまとめられている。コースを選ぶことで、学生は自動的にカリキュラムや将来のビジョンが与えられるという仕組みである。
また、大学全体でも、キャリアデザインやキャリアデュケーションセンターによる資格取得支援、またマイスターによるアドバンテージプログラムや海外留学プログラムなどの横文字プログラムが一通り揃っている。パンフレット全体もカラー刷りで分かりやすく書かれてはいるのだが、多くの内容を詰め込むあまりに大学全体の焦点がぼけてしまっている感がある。
西巣鴨にあるという地の利を生かして、香山リカさんや花田紀凱氏などの授業が展開されており、どの授業も楽しく学べそうな雰囲気だけはひしひしと伝わってくる。