村上春樹『ノルウェイの森(上・下)』(講談社 1987)を読む。
かなり昔に買って数ページ読んで断念し、長い間本棚の奥に眠っていた本である。
学生時代に手に取ってみたのだが、セックスが日常のものとなっているモテる大人のトレンディードラマのような気がして敬遠していた。
しかし、自分自身が30代後半になってから読み返してみて初めて面白さが分かった。37歳の僕が20年近く前の学生時代を回想する場面から物語は始まる。 そして、17歳で親友を自殺で亡くして以来、「死は生の対極にあるのではなく、我々の生のうちに潜んでいるのだ」という諦念を抱え、積極的に「生きる」エ ネルギーを失った僕が、同じ生き方をしながら結局「自殺」を選んだ恋人、そして同じ境遇から逆に「生」を選んだ友人との出会いを通して、とりあえずこの不 安な世の中を生きていくを選択をしていく物語が展開されていく。前半は恋愛小説のようなトーンであるが、後半に入ると、生きることの意味を問い直そうする 若者の「ビルドゥングス・ロマン」へと変わっていく。
印象的であったのが、女性の膣内に射精をするという行為だけが「生」に繋がり、それ以外のフェラチオやマスターベーションなどの性行為は全て死に彩られる というメタファーである。生と死の境界線をふらふらする若者の生き方と、勃起して濡れて挿入、射精ができるまでが「生」、それ以外は「死」と定義づける セックスシーンが頭の中でクロスオーバーして、確たる読後感のある作品であった。