第133回芥川賞を受賞した、中村文則『土の中の子供』(新潮文庫 2008)を読んだ。
幼い頃に壮絶な暴力を受けたことがトラウマとなって、大人になっても、暴力を受けたり、物や人間関係を破壊することでしか自分の存在を確認できない男の心理を描く。ちょうど太宰治の『人間失格』の後半部を読んでいるような感じで、死や虐待の恐怖から逃れられないどころか、逆に自死を希求してしまう歪んだ心模様を、徹底した自問自答形式で描いていく。
芥川賞を受賞した表題作の他に、『蜘蛛の声』という短編も掲載されているが、内容はよく似ている。
あまり一般受けのする作品ではないが、いかにも「純文学」の薫りのする作品で、私自身の浪人時代の荒れた気持ちを思い出しながら読むことができた。