古谷綱武編『石川啄木集−下−』(新潮文庫 1950)を読む。啄木は歌ばかり作っている人かと思っていたが、熱烈な文章を書いていることにびっくりした。彼がまだ26歳(といっても、亡くなる1年前なのだが)の時に、友人に宛てた手紙の一節を引用してみたい。
そうして僕は必ず現在の社会組織経済組織を破壊しなければならぬと信じている、これは僕の空論ではなくて、過去数年間の実生活から得た結論である。僕は他日僕の所信の上に立って多少の活動をしたいと思う。僕は長い間自分を社会主義者と呼ぶことを躊躇していたが、今ではもう躊躇しない。無論社会主義は最後の理想ではない、人類の社会的理想の結局は無政府主義の外にない(君、日本人はこの主義の何たるか知らずに唯その名を恐れている、僕はクロポトキンの著書を読んでビックリしたが、これほど大きい、深い、そして確実にしてかつ必要な哲学は外にない、無政府主義は決して暴力主義でない、今度の大逆事件は政府の圧迫結果だ、(中略))然し無政府主義はどこまでも最後の理想だ、実際家は先ず社会主義者、もしくは国家社会主義者でなくてはならぬ、僕は僕の全身の熱心を今この問題に傾けている、「安楽を要求するは人間の権利である」僕は今の一切の旧思想、旧制度に不満足だ、