日別アーカイブ: 2007年7月26日

『武道の心で日常を生きる:身体脳を鍛えて、肚を据える』

夏の4冊目
宇城憲治『武道の心で日常を生きる:身体脳を鍛えて、肚を据える』(サンマーク出版 2005)を読む。
心道流空手師範宇城先生の武道論である。先月も類書を読んでおり、内容的には重なっている部分が多かったが、今年上半期に読んだ本の中で一番印象に残る本であった。身体で物を見、感じ、動くことの大切さを日本の伝統的文化に遡って説明をする。そして、「内面の力」といった神秘のベールを剥いで、身体で反応する工夫を分かりやすく例証する。格闘技や武道を志すものは一読して損はない。
宇城氏は筋肉やスピードに頼るスポーツ化された武道を否定し、身体の内的な力に根ざした真の武道について次のように定義する。少々長いが引用してみたい。

平和を求める武術稽古の本質は「絶対的世界」に身を置くことにあります。絶対的世界とは、競争原理を乗り越えた世界です。それは人に勝つより自分に勝つこと、すなわち自分自身との戦いであり、その究極は「相手との調和、自然との融合」の心にあります。
「武術を稽古していると理想が高くなる。一般的には理想が高くなると空想になってしまうが、武術をやっていると理想が本当の理想となり、それを実現しようとして努力するようになる。そういうエネルギーが湧いてくる」これは(師範の)座波先生の言葉です。稽古を重ねるうちに、目指す山の高さを知り、いかにその頂上が高いところにあっても、底に向かおうとするエネルギーが湧いてきます。それは最高峰を目指して山を征服しようとする試みとも違います。
武道の山とは、頂上に近づけばさらに高くなっていくような山です。その山は、自分自身のあり方でいくらでも高くなっていきます。目的は頂上に達することではなく、山の大きさ、登る山を大きくすることに本質があります。武術空手の稽古はそれを可能にします。ここに武術空手の魅力があるのです。その生き方が武道ということです。

そして武道を日常に生かす点については次の軽妙な言葉で展開している。

人生には三つの坂がある、といいます。一つは「登り坂」、そして「下り坂」、もう一つは「まさか」です。人生においては、しばしば「まさか」が直面します。そのとき慌てず、動じず、肚を据えて取り組むことができるか。それが人生を大きく左右します。その人の器といってもいいでしょう。
武道はこの「まさか」に直面して動じない、確固とした自分を磨き上げてくれるものがあります。

他にも様々な場面で使えそうな警句である。教員として是非暗記しておきたい。