佛教大学の通信教育のレポートであるが、案の定思いっきりテキトーなレポートになってしまった。この忙しい中、たった24枚のレポートなのに、なかなか時間をとることが出来ず、結局テキスト丸写しのちゃらんぽらん学生スタイルを踏襲するだけであった。明日の必着なのだが、完成したのは今日の午後6時であった。郵便局まで駆け足で行ったが、速達でも時間的な保証はないとのことだった。結局深夜発の宅急便で間に合うと分かり、わざわざ春日部市内の4号脇の小淵のクロネコヤマトまで出しにいってきた。蛇足だが、クロネコヤマトのフリーダイヤルでのコール対応は極めて丁寧であった。郵政公社もここ数年窓口対応は格段に向上したが、まだまだ民間業者との差を感じざるを得ない。
日別アーカイブ: 2004年11月6日
障害児教育原論提出用
就学基準の緩和、認定就学者の承認によって、障害児を受け入れる小・中学校で整備しなければならない条件を検討しなさい。
日本では歴史的に障害児は健常児から分離した場を作り、そこで教育するという「特殊教育」という考え方を基本において整備されてきた。実際の就学指導を行うのは都道府県や市町村の教育委員会の委嘱によって構成される医師や学校代表、ところによっては障害乳幼児の保育・療育施設の代表や心理専門家などの専門家を加えた就学指導委員会である。就学指導委員会は検査や報告などをもとに、相対的に障害の重い子どもは盲・聾・養護学校、相対的に軽い子どもは障害児学級という機械的な判断がなされえている。これまで学校教育法第22条の3に示される「判断基準」に基づき「重い」「軽い」が決められてきた。例えば、盲者では両眼の視力が0.1未満のもの、聾者は聴力レベルが100デシベル以上のもの、知的障害においては「遅滞の程度が中度以上のもの(IQ20〜50)」といったように障害の程度の応じた明確な規定があった。
しかし、国際障害者年(1981)に国連から打ち出した「可能な限り障害児を通常学校に統合する」という趣旨が提起され、さらに、1993年12月に国連総会では「政府は、障害をもつ子ども・青年・成人の、統合された環境での初等、中等、高等教育の機会均等の原則を認識すべきである」とする「インクルージョン(統合教育)」という理念の原則が採択されて世界の潮流となった。これらの流れを受け、日本でも2003年3月に文部科学省から「今後の特別支援教育の在り方について」の報告が出され、「従来の特殊教育の対象の障害だけではなく、LD、ADHD、高機能自閉症を含めて障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、その一人ひとりの教育的ニーズを把握して、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な教育や指導を通じて必要な支援を行う」との報告が出された。「特別支援教育」とは、これまでの障害の程度に応じ、特別の場で健常児からは分離して指導を行う「特殊教育」から、障害のある児童生徒一人ひとりの教育的ニーズに応えようとするものであり、教育観そのものの転換を促すものである。そして障害の軽重の基準のみで教育の場を決めるのではなく、障害者のニーズと環境によって出来るだけ統合教育の理念を具現化する緩和策が示された。そうした通常学級にて学ぶ障害児である「認定就学者」の条件は主に次のようにまとめられる。
・学習を支援する学習機器が用意されていること
・障害に配慮した施設面の整備
・専門性の高い教員の配置
・本人や保護者の希望があること
・受け入れる小・中学校の受け入れ態勢があること
以上の主な5点を総合的に判断し、市町村教育委員会は「認定就学者」を認めることができるとしている。いくら本人や保護者の希望があっても、条件整備が整っていなくては受け入れることは出来ない。
では具体的に「認定就学者」を受け入れる小・中学校で整備しなければならない条件を障害の種別ごとに列挙してみよう。
視覚障害
早期の段階から専門的な教育体制と教育機器の整備が求められる。特に通常学級で学ぶ弱視児には、拡大文字で印刷された教科書や、明視スタンドといった機器が必要である。
聴覚障害
聴覚障害児の指導には、大きく純粋口話法と手話法の2法がある。前者は相手の唇の動きを見て話し言葉を理解し、聴覚障害児自身も音声言語で発語・発話するという仕方でコミュニケーションの能力を身に付けさせるものである。言語聴覚士の配置と継続的な指導体制が求められる。後者の手話法は、手話を聴覚障害者の母語ないし第一言語とみなし、これを覚えさせ、コミュニケーション手段として利用させていくものである。手話を教えることの出来る専門性を持った教員の配置が必要である。
また、学童保育や児童館など放課後生活の場は、障害児が言葉を用いずに、健常児と体を使った遊びを通して関係を築いていくことができる有効な場である。教材、教具、教員もさることながら、言葉を媒介としない運動や遊びを伸び伸びできる環境を望みたい。
精神遅滞児
ダウン症など知的機能と適応行動の両方に持続的な発達の遅れがあり、生活や学習において特別なケアが必要なものである。特に食事、排泄、衣服の着脱、通学、挨拶など家庭生活、社会生活を送る上での必要な諸能力が身に付きにくい。程度が軽い場合は通教指導教室において個別プログラムを用意する必要がある。その際には外部の作業療法士との連携し、継続的な指導環境を築かなくてはならない。また程度が重い場合は、養護学校での「自立活動」において、身辺処理の確立、集団生活への適応のための訓練環境が求められる。
自閉症
自閉症児は対人関係の成立に困難を来し、引っ込みがちになりやすい。そのためできるだけ通常学級において、級友との触れ合いを通して言葉の交流を維持し、言葉を習得させる環境整備が必要である。また同時に級友たちの姿が見えるところで、担任は自閉症児と一対一の関係を結ぶようにすると、健常児たちが自閉症児への適確な接し方を学ぶチャンスにもなる。
2004年に文部科学省から「小・中学校におけるLD、ADHD、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」が出された。そのガイドラインでは、通常学級に6.3%の割合で在籍している上記の軽度発達障害児はこれまで通り、通常学級にての指導を原則としている。そして障害児学級なる固定化された教室を廃止し、通常学級に在籍した上で、障害に応じた教科指導や障害に起因する困難の改善・克服のための通教指導教室の活用が提言されている。
また児童生徒の実態を把握し、学校内の支援体制を組むための校内委員会の設置、専門家チームや巡回指導員、医療機関との連絡調整を行なう特別支援教育コーディネーターの位置づけも提言されている。
しかし、そうした特別支援教育体制も40人の大規模学級を前提にするならば画餅に過ぎない。文科省の提言を超えて、30人の少人数学級、養護教諭の複数配置、スクールカウンセラーの全校配置など、現通常学級において教員、児童生徒双方の心の余裕を生み出す環境整備が最も必要である。
ジャン・ピアジェは『世界人権宣言』の解説に次のような言葉を寄せている。条件整備を考えていく上での理念として捉えてみたい。
「教育を受ける権利とは、学校に通学する権利だけではない。それは、教育が個性の完全な開花をめざすかぎり、能動的な理性と生きた道徳的意識をつくりあげるのに必要なもの全部を学校のなかに見出す権利である。」
【参考文献】
越野和之「『特別支援教育』で学校はこうなる」かもがわ 2004
茂木俊彦『新障害児教育入門』旬報社 1995
茂木俊彦『障害児と教育』岩波新書 1990
小林一弘『視力0.06の世界』ジアース教育新社 2003
玉井収介『自閉症』講談社現代新書 1983
障害児の病理と生理提出用
神経系の仕組みと働きについて説明せよ。
心身障害の身体的背景として、中枢神経と抹消神経からなる神経系の障害は特に重要である。心身障害児を理解し、適格な教育を目指すには神経系の仕組みと働きについて押さえておく必要がある。
神経系は大きく中枢神経系と抹消神経系に分類され、中枢神経系は脳と脊髄に分けられ、抹消神経系はその機能によって体性神経系と自律神経系に分けられる。以下分類ごとに仕組みと働きについてまとめてみたい。
大脳は大きく「認識・運動・意識・情動・記憶学習」の五つの大きな機能を担っている。これら五つの機能を、脳全体として担っているのではなく、認識は大脳皮質の頭頂と側頭葉、運動は前頭葉、情動は視床下部から大脳辺縁系、意識は脳幹から視床、記憶学習は海馬から側頭葉といったように、その機能は偏在されている。以下その局在ごとの機能を羅列する。
前頭葉
前頭葉は大脳全体の4割も占めるが、前頭葉を切り取っても知能や記憶の能力に障害は起こらないが、人格や性格を目立って変わってしまう。前頭葉には人間に一番よく発達している創造、企画、感情の精神が宿り、人間の行動を操る一番重要な精神活動がなされる。すなわち前頭葉は社会関係と自他の感情を適切に理解・コントロールしつつ社会の中で前向きに生きるための知性と捉えることも出来る。ダニエル・コールマンは『EQ—こころの知能指数』の中で、前頭葉の持つ総合的情動能力を、自己認識力・自己統制力・動機付け・共感能力・社会的スキルの5つに分類している。こうした社会適応力を高める教育環境が求められる。
近年「学級崩壊」など通常学級において落ち着かない子どもの病原として指摘されることの多いADHDであるが、アメリカの臨床精神医のカプランの指摘によると、前頭葉の血液量が健常児に比較して低下していることが証明されている。また前頭葉における糖代謝の低下も原因の一つであるとの指摘もある。前頭葉は衝動を抑制したり、行動を統合する部位であるため、ADHDはそうした抑制統合機能の不全と考えられる。幼児期の子どもの大半は多動性を示し、診断を下すことが難しいため、DSMやICDなどの診断基準に従うとよい。
頭頂葉
頭頂葉は理解や認識、知覚を統合する分野であり、ここが損なわれると対象の認知が障害される。近年通常学級にも多数在籍すると指摘される学習障害(LD)児であるが、頭頂葉を含む脳全体の認知能力の不全が原因とされているが、効果的な治療はなく、教育現場での粘り強い取り組みが必要である。
後頭葉
視覚の中枢で、目の網膜に映った像は最終的にこの部位で視覚として認知される。ここが障害されると、視覚像を結びえない、もしくは物が見えてもそれが何であるかを認識できない精神盲や視覚失認という症状を示す。眼には何らの機能障害がなくても、後頭葉の機能障害を起こしているケースもあるので注意が求められる。
側頭葉
聴覚の中枢であると同時に、記憶を司る海馬がある部位である。ここが障害されると、てんかん発作や記憶障害、また食欲・性欲の異常が見られる。
言語野
話す・聞く・読む・書くといった言語活動は、言葉の理解を支配する感覚性言語野と言葉を話すための筋肉運動の統合が営まれる運動性言語野に分けられ、その大半は大脳の左半球に局在する。もし感覚性言語野が障害されると、相手の声は聞こえても、その意味が理解できない、また自分が話す言葉さえも意味が分からない状態になる。また運動性言語野に障害が生じると、声は自由に出るが、ある言葉を口にしても声を組み立てて言葉にすることができないため言葉が話せなくなる失語症となってしまう。特に自閉症児は言葉一つ一つの理解はあるが、言葉と言葉をつなげる理解能力が欠如しがちである。
大脳辺縁系
食欲や飲欲、性欲、群衆欲といった固体維持と種族保存の基本的生命活動をたくましくする本能的欲求に関わる部位である。ここは新皮質における理性や感情と、内臓を管轄する視床下部が受ける信号の両方から影響を受ける部位である。この部位が壊れると理性で本能をコントロールすることが難しくなる。
脳幹とは脳全体の中で、大脳と小脳を除いた大脳核、間脳、中脳、橋、および延髄を合わせた部位を言う。機能的には、生存に必要な基本的身体機能の調節を行なっている。以下その機能のあらましを羅列する。
間脳
視床と視床下部からなり、全身のほとんどすべての知覚神経の中継点で、知覚刺激はここを経て大脳へと送られる。視床下部は快・不快の原則に基づく本能的な情動に関わる中枢であり、また、睡眠、体温、血圧の調節や胃酸の分泌、水分調整など生命を維持するための自律神経の最高中枢であり、ストレスが続くと女性では生理が無くなったり、消化器官の障害となって現れる。
延髄
脳の最下部で脊髄のすぐ上方に続く部分であり、特に生命維持に直接関係する呼吸と循環系の中枢が存在しており、この部分が冒されると直ちに死に至る。また脳出血などで損傷されると、運動麻痺やパーキンソン病などの不随意運動の障害が起こる。
小脳
小脳の主な機能は運動の制御で、とくに体位のバランス調整や、筋肉の緊張度合いのコントロールを行っている。従って、小脳に損傷があると、意図した運動が思い通りに出来なくなる。例えば指の先で鼻の頭をさわろうと思っても外れたり、茶碗を手にとっても口のところに当たらないし、こぼしてしまったりする。また小脳の萎縮で、言語が緩慢になったり、断続的発語を呈したりする言語障害も見られる。
脊髄
脊髄は神経を通って信号が入ってきて、また神経を通って信号が出ていくという比較的簡単な信号の中枢になっており、身体防御レベルの体制反射を司る。
抹消神経はその機能によって体性神経系と自律神経系に二分される。体性神経は運動と知覚の働きを営み、大半が意志の支配下にあるので随意神経ともいう。これに対して自律神経は、例えば呼吸、循環、消化、分泌など自律的に機能し、意志によって左右されることがない。
さらに、自律神経系は交感神経と副交感神経に分けられる。脊髄の全域から出ている交感神経は心臓や血液の働きを促進し、脳幹か出ている副交感神経は消化器系の働きを促すように、両者は拮抗的に働く。副交感神経は脳幹の状態に左右されやすく、大きなストレスを抱えると摂食障害や内蔵器官の不調として現われる。
【参考文献】
伊藤正男『脳のメカニズム』 岩波ジュニア新書 1986
時実利彦『脳の話』 岩波新書 1962
フロイド・E・ブルーム『新・脳の探求』 講談社新書 2004
澤口俊之『幼児教育と脳』文春新書 1999
大島清『頭が良くなる脳科学講座』ナツメ社 2003
熊谷高幸『自閉症からのメッセージ』講談社現代新書 1993
障害児教育方法
『治療教育的方法』を2つえらび、それらの教育方法のあり方が知的障害とどのようにかかわっているのか、(a)方法の概要、(b)効果的な側面、(c)実施上の留意点などについてまとめなさい。
特殊教育諸学校の教育課程は、小・中・高等学校の教育目標とともに、心身の障害に基づく種々の困難を改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養うことを目標に、児童・生徒の障害の状態及び特性等を十分考慮して編成することになっている。また近年「特別支援教育」という考え方により「児童生徒の一人一人の教育的ニーズを把握し、当該児童生徒の持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な教育を通じて、適切な支援を行う」ことが教員に求められている。特に知的障害児は外見からはその障害の状態を把握することが難しいため、様々な方法によってその障害の状態を把握する必要がある。障害児一人一人の的確な把握と支援のための療法を2点挙げてみたい。
〈遊戯療法〉
遊戯療法とは、遊びや遊具を媒介として行われる心理療法の一技法である。遊びを媒介として、治療者と子どもの治療的関係を形成し、子どもの持つ感情や問題を表現させ、子どもの発達の順序に従った「情緒の安定」「自発性」そして「社会性」を身に付けさせようとするものである。そして、子どもが遊びの中で表現した事柄に分析的な解釈を行ない、段階に応じた心理障害の改善を試みる療法である。
対象は言語能力の発達や遊びに対する興味などを考慮して、3歳から12歳くらいまでとされている。また一般的に心理的・情緒的な原因に基づく問題行動に適用されることが多い。知能の面は遊戯療法が一定の自己表現や学習能力を前提として行なわれるため、中度・重度の精神遅滞児には不適切と考えられる。
個人遊戯療法では15㎡くらい、集団遊戯療法では30㎡が遊戯療法の広さとして適切である。そして原則として子どもの興味を引くものや感情を解放するもの、子どもとの治療関係を促進するもの、現実を試す機会を与えるもの、などの観点から子どもの問題や年齢、治療の目的などに従って遊具を選択する。具体的には人形、家具のついた人形の家、水遊びや砂場セット、ままごとセット、大型箱、積木、動物、自動車、鉄砲、クレヨン、絵具、粘土、楽器類、そして平均台、マット、トランポリン、ボールなどの運動用具である。
導入期においては幼時の場合、親子の分離がうまく行くかどうかがその後の治療に多きい影響を与えることもあるので慎重を期す。次に治療者と子どもとの信頼関係が受容的な雰囲気の中で、自由に述べることを子どもに知らせる。治療者と子どもをありのままに受け入れ、そのことによって子どもは自らの感情の解放ができるようになる。子どもは自由に遊ぶことにより、解放と心の安定が得られるようになる。そして治療が進行するに従い、子どもの感情表現を解釈し、子どもの基本的な葛藤を洞察に導き現実場面への適応がなされるように配慮する。治療経過を判断する指標としては、遊びがどのように内容的に変化していったか、治療者と子どもとの関係が深まり、子どもの感情表現が豊かに意味深くなったか、遊戯場のみならず家庭生活において子どもが持っている問題行動や症状が改善し、社会性が向上していったかなどが挙げられる。
留意点として、精神遅滞児の場合、知的発達そのものの遅れのため、知能を伸ばすのに時間と根気が必要で、治療者との個人的な関係が大切である。また自閉症児の場合、特定の治療者と治療環境に結びついた特定の行動パターンを身につけてしまう危険性が指摘されている。自閉児に対しては集団遊戯療法において、人間的な交流の刺激を与え、子どもと他人との関わりの機会を増やしていくことが求められる。
〈感覚統合理論〉
感覚統合理論はアメリカのリハビリテーションとしての作業療法の研究者であるエアーズが提唱し、主に学習障害児を対象とした治療法として発展したものである。その理論と方法はエアーズがこれまでの大脳生理学、神経心理学、リハビリテーション学、発達心理学、知覚—運動理論などの科学的知見を文字通り統合して構築したものである。感覚統合とは、人間が環境との相互作用のなかで生存していくための脳の神経過程のことで、体内・体外から取り込まれた感覚情報(刺激)が脳の中で有効に組織化されることを意味している。
これまでの脳障害研究は上位中枢、すなわち大脳皮質に焦点化され、その治療的教育法もまた言語、概念や認知形成の水準に対し、直接皮質レベルの問題として把握することが中心的であった。しかしエアーズは中枢神経系の機能を系統発生的な考えで捉え、下位の機能(脳幹)の活性化を計ることにより脳全体が活性化し、その結果として行動の適正化をもたらす基礎となるという仮説を立てた。感覚統合指導は、感覚入力、特に前庭覚や筋肉・関節などの固有覚、あるいは触覚からの入力をできるだけ統合し、自発的な適応反応を高められるよう配慮し、それを制御することを学習させていくものである。特に言語能力に障害を抱える精神遅滞児、自閉症児、脳性まひ児、学習障害児などを対象として実施されている。
エアーズは感覚の統合の過程を4つの水準で分けた。そして、それぞれの水準において一歩一歩子どもの全体発達を促し、発達系列に沿った実践的な働きかけを行なっていく。
第1統合水準:触覚の階層で皮膚のあらゆる部分からの触覚情報がいくつかの形にまとまり、摂食反応と母子の絆を形成する段階である。ボルスター等の教具を通した刺激を与えながら、触覚と前庭系の健常化を図り、原始姿勢反射の統合を図る。
第2統合水準:触覚・前庭覚・固有覚の3つの基礎的感覚が自己の身体知覚や両側の協応を促し、運動企画・注意力・活動力・情緒的安定としてまとまっていく段階である。四足位平衡盤等を用いながら平衡反応の発達を目指す。
第3統合水準:聴覚・視覚が組み込まれて、会話能力を高め、スプーンやフォークで食べたり、書いたり、物を組み合わせたりと自立的な機能が円滑に遂行できるようになる段階である。スクーターボード等を活用しながら、身体両側の感覚運動機能の協調を高めたり、動きの中で、眼球運動の健常化を図る。また遊びを通して視覚的形態と空間知覚を発達させる。
第4統合水準;第1〜3水準において、触覚・固有覚・前庭覚刺激を中心に様々な刺激を加えていき、社会生活に必要な全体としての脳の統合機能の完成を目指し、社会関係と個人的学習能力が一体化する段階まで至らせる。
上記の段階を精細に観察し、動きを連続行為として組み立てるなど多様な質と量の感覚刺激を与え、子どもの状態を実際的な動きの中で捉えることが大切である。知的障害を抱えた子どもはとかく成長が遅れがちであるので、障害児・治療者双方に、着実に段階を踏んでいくだけの地道さが求められる。
【参考文献】
茂木俊彦『新障害児教育入門』旬報社 1995
越野和之・青木道忠『「特別支援教育」で学校はどうなる』クリエイツかもがわ 2004