熊谷高幸『自閉症からのメッセージ』(講談社現代新書 1993)を読む。
自閉症についての様々な症例が紹介されており、その特徴についてかなり踏み込んだ理解が出来た。特に自閉症では言語能力について著しい齟齬があり、会話が難しいが、その大きな原因については熊谷氏は、てにをはの助詞の誤りが多い点を指摘する。そのために「車が犬に轢かれた」「熊で魚を釣る」といったような文を作ってしまう。言葉一つ一つに対する理解はあるのだが、言葉と言葉を適切に結びつけることを苦手とするようだ。生前中野重治氏は日本語は助詞があるから文が生きてくる。いくら名詞や動詞を検閲で塗られてしまったとしても、文意が通じてしまう膠着語である日本語の持つ力を礼賛していた。その逆に自閉症児は「てにをは」の理解が困難であるため、いくら名詞や動詞を覚えてもスムーズな会話は期待できない。
タイトルに「自閉症からのメッセージ」とあるように、自閉症の様々な症例を知るたびに、いかに「我々」健常人の認識能力が精妙なものであり、「私」という意識の下に複雑かつ整然と統合されたものであるかが思い知らされる。
『自閉症からのメッセージ』
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