障害児教育方法

『治療教育的方法』を2つえらび、それらの教育方法のあり方が知的障害とどのようにかかわっているのか、(a)方法の概要、(b)効果的な側面、(c)実施上の留意点などについてまとめなさい。

 特殊教育諸学校の教育課程は、小・中・高等学校の教育目標とともに、心身の障害に基づく種々の困難を改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養うことを目標に、児童・生徒の障害の状態及び特性等を十分考慮して編成することになっている。また近年「特別支援教育」という考え方により「児童生徒の一人一人の教育的ニーズを把握し、当該児童生徒の持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な教育を通じて、適切な支援を行う」ことが教員に求められている。特に知的障害児は外見からはその障害の状態を把握することが難しいため、様々な方法によってその障害の状態を把握する必要がある。障害児一人一人の的確な把握と支援のための療法を2点挙げてみたい。

〈遊戯療法〉
 遊戯療法とは、遊びや遊具を媒介として行われる心理療法の一技法である。遊びを媒介として、治療者と子どもの治療的関係を形成し、子どもの持つ感情や問題を表現させ、子どもの発達の順序に従った「情緒の安定」「自発性」そして「社会性」を身に付けさせようとするものである。そして、子どもが遊びの中で表現した事柄に分析的な解釈を行ない、段階に応じた心理障害の改善を試みる療法である。
 対象は言語能力の発達や遊びに対する興味などを考慮して、3歳から12歳くらいまでとされている。また一般的に心理的・情緒的な原因に基づく問題行動に適用されることが多い。知能の面は遊戯療法が一定の自己表現や学習能力を前提として行なわれるため、中度・重度の精神遅滞児には不適切と考えられる。
 個人遊戯療法では15㎡くらい、集団遊戯療法では30㎡が遊戯療法の広さとして適切である。そして原則として子どもの興味を引くものや感情を解放するもの、子どもとの治療関係を促進するもの、現実を試す機会を与えるもの、などの観点から子どもの問題や年齢、治療の目的などに従って遊具を選択する。具体的には人形、家具のついた人形の家、水遊びや砂場セット、ままごとセット、大型箱、積木、動物、自動車、鉄砲、クレヨン、絵具、粘土、楽器類、そして平均台、マット、トランポリン、ボールなどの運動用具である。

 導入期においては幼時の場合、親子の分離がうまく行くかどうかがその後の治療に多きい影響を与えることもあるので慎重を期す。次に治療者と子どもとの信頼関係が受容的な雰囲気の中で、自由に述べることを子どもに知らせる。治療者と子どもをありのままに受け入れ、そのことによって子どもは自らの感情の解放ができるようになる。子どもは自由に遊ぶことにより、解放と心の安定が得られるようになる。そして治療が進行するに従い、子どもの感情表現を解釈し、子どもの基本的な葛藤を洞察に導き現実場面への適応がなされるように配慮する。治療経過を判断する指標としては、遊びがどのように内容的に変化していったか、治療者と子どもとの関係が深まり、子どもの感情表現が豊かに意味深くなったか、遊戯場のみならず家庭生活において子どもが持っている問題行動や症状が改善し、社会性が向上していったかなどが挙げられる。

 留意点として、精神遅滞児の場合、知的発達そのものの遅れのため、知能を伸ばすのに時間と根気が必要で、治療者との個人的な関係が大切である。また自閉症児の場合、特定の治療者と治療環境に結びついた特定の行動パターンを身につけてしまう危険性が指摘されている。自閉児に対しては集団遊戯療法において、人間的な交流の刺激を与え、子どもと他人との関わりの機会を増やしていくことが求められる。

〈感覚統合理論〉
 感覚統合理論はアメリカのリハビリテーションとしての作業療法の研究者であるエアーズが提唱し、主に学習障害児を対象とした治療法として発展したものである。その理論と方法はエアーズがこれまでの大脳生理学、神経心理学、リハビリテーション学、発達心理学、知覚—運動理論などの科学的知見を文字通り統合して構築したものである。感覚統合とは、人間が環境との相互作用のなかで生存していくための脳の神経過程のことで、体内・体外から取り込まれた感覚情報(刺激)が脳の中で有効に組織化されることを意味している。
 これまでの脳障害研究は上位中枢、すなわち大脳皮質に焦点化され、その治療的教育法もまた言語、概念や認知形成の水準に対し、直接皮質レベルの問題として把握することが中心的であった。しかしエアーズは中枢神経系の機能を系統発生的な考えで捉え、下位の機能(脳幹)の活性化を計ることにより脳全体が活性化し、その結果として行動の適正化をもたらす基礎となるという仮説を立てた。感覚統合指導は、感覚入力、特に前庭覚や筋肉・関節などの固有覚、あるいは触覚からの入力をできるだけ統合し、自発的な適応反応を高められるよう配慮し、それを制御することを学習させていくものである。特に言語能力に障害を抱える精神遅滞児、自閉症児、脳性まひ児、学習障害児などを対象として実施されている。

 エアーズは感覚の統合の過程を4つの水準で分けた。そして、それぞれの水準において一歩一歩子どもの全体発達を促し、発達系列に沿った実践的な働きかけを行なっていく。

第1統合水準:触覚の階層で皮膚のあらゆる部分からの触覚情報がいくつかの形にまとまり、摂食反応と母子の絆を形成する段階である。ボルスター等の教具を通した刺激を与えながら、触覚と前庭系の健常化を図り、原始姿勢反射の統合を図る。

第2統合水準:触覚・前庭覚・固有覚の3つの基礎的感覚が自己の身体知覚や両側の協応を促し、運動企画・注意力・活動力・情緒的安定としてまとまっていく段階である。四足位平衡盤等を用いながら平衡反応の発達を目指す。

第3統合水準:聴覚・視覚が組み込まれて、会話能力を高め、スプーンやフォークで食べたり、書いたり、物を組み合わせたりと自立的な機能が円滑に遂行できるようになる段階である。スクーターボード等を活用しながら、身体両側の感覚運動機能の協調を高めたり、動きの中で、眼球運動の健常化を図る。また遊びを通して視覚的形態と空間知覚を発達させる。

第4統合水準;第1〜3水準において、触覚・固有覚・前庭覚刺激を中心に様々な刺激を加えていき、社会生活に必要な全体としての脳の統合機能の完成を目指し、社会関係と個人的学習能力が一体化する段階まで至らせる。

 上記の段階を精細に観察し、動きを連続行為として組み立てるなど多様な質と量の感覚刺激を与え、子どもの状態を実際的な動きの中で捉えることが大切である。知的障害を抱えた子どもはとかく成長が遅れがちであるので、障害児・治療者双方に、着実に段階を踏んでいくだけの地道さが求められる。

【参考文献】
茂木俊彦『新障害児教育入門』旬報社 1995
越野和之・青木道忠『「特別支援教育」で学校はどうなる』クリエイツかもがわ 2004

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