司馬遼太郎『最後の将軍:徳川慶喜』(文春文庫 1997)を読む。
大政奉還を成した徳川最後の将軍で、教科書にも二条城でのその様子を描いた絵が載っているが、彼自身は将軍職には僅か1年あまりしかおらず、また明治に入ってからは黙りを決め込んだため、彼の政治思想は不詳であった。小説の形であるが、ペリー来航以来一貫して開国の思想を持っていた慶喜が、300年続いた幕藩体制にしがみつく守旧派と、天皇を担ぎ出して攘夷を唱える急進派と、水戸出身者を排撃せんとする紀州・尾張家の幕閣の3者の対立の狭間で、将軍の立場で大政奉還にまで導く生き様は興味深い。「百策をほどこし百策を論じても、時勢という魔物には勝てぬ」と自らの立場を捨てることで丸く収めようとする慶喜の姿は判官贔屓の日本人の郷愁を誘う。
『最後の将軍』
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