地理」カテゴリーアーカイブ

「ハイチでM7.2 1297人死亡」

本日の東京新聞夕刊に、一昨日に発生したハイチの地震が報じられていた。
2学期の授業で扱うプレートの地図と照らし合わせてみると、今回の震源地の真下を「ずれる境界」が通っていることが分かる。地図を見る限り、今回の震源地は「狭まる境界」上にないので、海溝型地震に伴う津波の心配はほぼ無い。しかし、大地が大きく2つにずれる直下型地震となり、人間が生活する地域に直接大きな被害が出る。

外務省のデータによると、ハイチの人口は1,126.3万人、面積は北海道の約1/3程度の27,750平方キロメートルとなっている。人口密度は406人/平方キロメートルとなっており、日本よりも高い数値である。また、民族は中米の島国なのに、アフリカ系が95%を占める。元々は西アフリカから連れてこられた黒人奴隷の国である。一人当たりのGNIは790米ドルと、南北アメリカで最貧国となっている。現在でも主要な産業はカカオ、マンゴー、コーヒー、サトウキビなどの商品作物であり、19世紀あたりの世界史の教科書に出てきそうな雰囲気の国情である。

また、カリブ海は熱帯性低気圧(太平洋西部ではタイフーン、インド洋ではサイクロン、太平洋東部や大西洋で発生するものをハリケーンと呼ぶ)の通り道であり、北半球ではこの8月、9月に熱帯性低気圧の発生のピークを迎える。ハイチの経済状況を考えると、地震からの復旧が遅々として進まないところで、ハリケーンの被害が拡大することが予想される。

「アフガン情勢悪化 EU 難民流入警戒」

本日の東京新聞朝刊に、米軍の撤退に伴いタリバンの攻勢が著しくなっているアフガニスタン情勢が報じられていた。テレビではあまり報じられていないが、パキスタンの西側にあるイスラム教国のアフガニスタンは、数年前のシリア内戦どころか、1960年代のベトナム戦争のような泥沼の様相を呈している。

少し歴史を振り返ってみたい。2001年9月に、アフガニスタンを根拠地にしていた国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビン・ラディンが、アメリカ同時多発テロを実行した。旅客機がビルに突っ込む映像を見たことがある人も多いと思う。翌10月から、米軍はアフガニスタンに猛攻撃をかけ、アルカイダだけでなく、当時のアフガニスタンのタリバン政府まで壊滅に追い込んでいった。

以降、米国が中心となってアフガニスタンにアメリカ型民主主義政権が樹立されることとなった。現在のガニ大統領は、米国の大学で学び、2002年当時のアフガニスタン=イスラム移行国で閣僚を務めている。日本も米国へのおべっかを示すため、親米政権に69億ドル(約7600億円)もの支援を行ってる。

しかし、それまでのイスラムを基盤とした神の教えに従う政治から、人間が人間を支配する民主主義に急激に移行したため、民衆の不満が燻り続けることになる。また、ほぼ壊滅に追い込まれたタリバンもいつの間にやら息を吹き返してくる。

米国はブッシュ大統領、オバマ大統領、トランプ大統領の3代にわたって、アフガニスタン政権を支えていが、莫大な軍隊の駐留費が掛かる上、アフガニスタンには資源も産業もないため、仮に和平が実現しても米国に何のメリットも齎(もたら)さない。米国の損得に聡いトランプ大統領時代に、アフガニスタンの駐留米軍の撤退が決定することとなった。

また、ここでも授業中に何度も触れた中国の話が出てくる。中国は「一帯一路経済圏構想」の実現に向け、インド洋への足掛かりを作るために、ミャンマーの軍事政権を支援しているとのこと。同じベクトルの話で、インド洋への別ルートとして、中国にとってアフガニスタンやイラン、パキスタンは地政学的に重要な位置にある。習近平政権にとって、この地域に親中政権を作ることが、インド洋支配の重要な要石となる。

今年に入って、中国とロシアの両国が、陰日向にタリバン政権の支援に回っているとの報道がある。ミャンマーの軍事政権との類似性を見ていくことが大切である。9月の授業から西アジアに入っていくが、授業の中でどこまでアフガニスタン情勢の説明ができるだろうか。皆さんが興味を持ってもらえるような授業展開に努めたい。

「米の白人初めての減少」

本日の東京新聞朝刊に米国の国税調査の結果が報じられていた。
記事によると、米国の人口は10年前から7.4%増えて3億3千万人となっている。そのうちスペイン語を母語とするヒスパニックを除く白人は、逆に10年前より減少し、構成率も6割を切っている。一方、トランプ大統領のヘイト政策があったにも関わらず、ヒスパニック系は23%も増えている。特にメキシコとの国境が近い西部のカリフォルニア州では、白人を越えて州人口の4割近くを占めている。

こうした傾向自体は、10年前に出版された教科書にも書かれている通りである。ただし、田舎に多いWASP(White Anglo-Saxon Protestant)の人口が急激に減っており、米国でも都市部の農村部の格差が広がっていることがうかがわれる。

多くの高校生は、政治や経済、スポーツ、文化などあらゆる分野をリードする米国に憧れて、英語を毎日勉強しているが、そのうち、都市部ではスペイン語の方が通じるようになっているかもしれない。世界の共通語が英語からスペイン語になる日も近いか? アディオス! グラシアス!

「ベラルーシ 拷問・逮捕 強まる弾圧」

本日の東京新聞朝刊に、ベラルーシの「欧州最後の独裁者」とも称されるルカシェンコ大統領を巡る政治情勢が報じられていた。ルカシェンコ大統領の人物よりも、ベラルーシの国について書いてみたい。
ベラルーシはロシアの西側に位置し、東にポーランド、北にラトヴィア、リトアニア、南にウクライナがある。ちょうどEUに加盟しているバルト三国やポーランドと、西部EU寄りで東部はロシア寄りの玉虫色のウクライナ、そして旧ソ連の頭領であったロシアに挟まれた微妙な場所である。そのため、EUとの緩衝材的な役割を果たすことで、ロシアから政治的・経済的恩恵を受けてきた国である。

輸出品目のトップに、肥料で用いられるカリウムが上位に上がっている。カリウムは窒素やリンに肩を並べる肥料の三大要素である。統計を調べてみると、カナダ、ベラルーシ、ロシア、中国、ドイツの生産上位 5 か国で、世界のカリウム鉱石の生産量の 80%強が占められている。一人当たりのGDPは6,283ドルであり、ブラジルやペルーと同じくらいの中所得国である。一方で、旧ソ連的な管理経済が維持されており、2019年のIMFの調査によると、失業率は先進国を遥かに上回る0.3%となっている。

また、2015年1月には、対外統一市場の形成、域内の人・モノ・サービスの自由を発展させるという、EUと全く同じ狙いの「ユーラシア経済同盟」が発足している。現在加盟国は、ベラルーシ、ロシア、カザフスタン、アルメニア及びキルギスの5か国で少し寂しい顔ぶれである。ベラルーシの視点から、欧州や西アジアの政治経済を見ていくのも面白いであろう。