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「ハイチ地震1週間 政情不安、混乱に拍車」

本日の東京新聞夕刊に、ハイチ地震に関する追加報道が掲載されていた。すでに2100人強の死者が確認されているハイチだが、政府が機能せず混乱が続いているという。外務省の基礎データによると、ハイチの経済概況について以下のようにまとめられている。

  1. ハイチ経済は1970年代まで、農業依存型の脆弱な産業構造であった。
    1980年代以降、軽工業は一部発展を遂げたものの、国内の政情不安と1991年の軍事クーデターを契機とした国際社会による経済制裁が経済発展を妨げる要因となり、1994年には、国民経済は首都に人口が集中し、失業者があふれ、困窮状態に陥った。
    民主主義の回復と共に国際社会からの援助が再開されたが、その後も、ハイチの政情不安や自然災害の発生等により、ハイチの経済社会状況は、厳しい状況が続いている。
  2. 2008年9月、同国付近を連続通過したハリケーンにより、死者約800名を含む被災者が約80万人にのぼったほか、同国GDPの約15%に相当する損失を被った。
  3. 2010年1月、耐震性のないコンクリート造りの家屋に集住する首都近郊で、大規模な地震が発生し、死者約31万人を含め被災者は約370万人(ハイチ政府発表)にのぼり、同国GDPの約120%に相当する約78億ドルの損失を被った。
  4. 2016年10月、ハリケーン・マシューにより、ハイチ経済は打撃を受け、GDPの約5分の1に相当する約20億ドルの損失を被った。農業セクターにおいては5億8千万ドル相当の被害を受け、同国の収穫物の90%が被害を受けた。
  5. ハイチ経済は成長に向けての潜在力がありながらも、災害、政情不安、開発援助への過度な依存、脆弱な産業構造といった要因によって発展を阻まれている。

外務省の公式な見解なのだが、救いようのない書きっぷりとなっている。ハイチの抱える闇の深さが伺われる。こうした国をどのように再建できるのか、そうした探求的な授業の実践方法をこれから模索してみたい。

「ミャンマー選手難民認定 2ヶ月で告知」

本日の東京新聞朝刊に、ミャンマー国軍に抗議の意を示し、帰国を拒否したミャンマー選手に対し、日本政府がすみやかな難民認定手続きをとったとの報道があった。

日本も批准した難民条約の第1条で、難民は「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」と定義されている。

記事の中で、「難民認定は日本が民主化運動を認めた意味になる」とのコメントがあったが、それは違うと思う。難民認定が当該国に対する政治的見解を示すものであるならば、難民の認定そのもののハードルが上がってしまう。今回の件とは逆のケースで、ミャンマーの民主化運動に抗議の意を示し国にいられなくなった軍人がいれば、同じように難民として認定すべきなのである。

「欧米 アフガン タリバン政権人権対応に不信感」

本日の東京新聞朝刊に、アフガンのタリバンが政権発足に向けて動きを加速しているとの報道があった。

現在世界の主だった国の中で、タイとミャンマーが軍事政権となっている。どちらの国も中国の支援を受けており、政治的な自由こそ制限されるが、経済的には安定しているため、一定程度の民衆の支持が集まっていると言ってもよい。外務省の統計によると、タイの一人当たりのGDPは7,810ドル(2019年、IMF)、経済成長率は2.4%(2019年、IMF)、失業率は1.0%(2019年, IMF)となっている。

タリバン政権も中国やロシアと事前に交渉を済ませているようなので、タイやミャンマーに近い政治形態を取るのであろう。これだけ新型コロナウイルスの感染拡大で経済が停滞している以上、軍事独裁政権による危機打開を望む声は増える一方であろう。民主主義による遅々とした手続に拠らず、迅速に徹底して対応する軍事化、独裁化を選ぶ国が増加していきそうだ。

「硫黄島付近で新島」

本日の東京新聞夕刊より。
小笠原諸島・硫黄島の南50kmの「福徳岡ノ場」で火山島が形成されつつあるとの記事があった。
火山島の特徴は玄武岩という黒い火山岩石で作られるので、写真でも分かりやすい。ちなみに玄武岩の「玄」という字は「玄人(くろうと)」という言葉でも分かるように、元々黒色、転じて奥深いという意味を表す漢字である。

では、どうして火山ができるのかというと、言葉よりも教科書の図が分かりやすい。火山は地球上どこにでもできるものではなく、大半は、下図のように重い海洋プレートが軽い大陸プレートの下に沈み込む海溝から、100〜150kmほどの深部で、海洋プレートが熱で溶けて上昇することで発生する。そのため火山は海溝から100kmほど離れて、海溝に並行な位置に形成される。これを火山前線という。

次に、同じく教科書の図を紹介したい。太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に潜り込む伊豆・小笠原海溝から100kmほど西側の火山前線上に、先ほどの「福徳岡ノ場」がぴったりと位置することが分かる。見比べてみてほしい。伊豆諸島や小笠原諸島もすべて狭まる境界が生んだ火山島である。

また、静岡県・伊豆半島も2000万年ほど前に海洋上に誕生した火山島であった。それがプレートの動きによって本州にぶつかって半島になったものである。地球の動きを感じるよね。

「米誤算 タリバン進攻防げず」

本日の東京新聞朝刊より。
アフガニスタンの反政府武装組織タリバンが一気に首都カブールまで進攻し、米国が20年にわたって作ってきた親米ガニ政権が一気に瓦解してしまった。驚くほど早いスピードである。この背景には、これまでの欧米型民主主義政権が軍事力をちらつかせてイスラム教の柱である政教一致を否定しきたため、タリバンの唱えるイスラム原理主義に対し一定程度民衆の支持が集まったと考えられる。

また、中国政府がタリバン政権に期待感を表明しているように、中国やロシア、パキスタン、イラン、カザフスタンなどの周辺国がタリバンを裏で支援しているとの報道もある。特に中国は新疆ウイグル自治区との軋轢を抱えているので、アフガニスタンの安定には気を遣うであろう。

外務省のデータによると、アフガニスタンの一人当たりのGNIはたったの530ドル(世界銀行2019)しかない。世界で一番貧しい国といってよいであろう。テレビニュースを見ても誰一人マスクを着用していない。マスクそのものが流通していないと考えられる。

日本が取る道は米国に追従して金を出すことではなく、人道支援の観点から難民の受け入れ体制を作ることである。外務省は「我が国の人道支援方針」の中で、次のように定めている。

人道支援とは一般に,人道主義に基づき人命救助,苦痛の軽減及び人間の尊厳の維持・保護のために行われる支援をいう。難民,国内避難民,被災者といった最も脆弱な立場にある人々の生命,尊厳及び安全を確保し,一人一人が再び自らの足で立ち上がれるよう自立を支援することがその最終的な目標である。このため我が国としては,人道支援は,緊急事態への対応だけでなく,災害予防,救援,復旧・復興支援等も含むものとして認識している。

人道支援の基本原則は,「人道原則」,「公平原則」,「中立原則」,「独立原則」であり,我が国はこれらの基本原則を尊重しつつ人道支援を実施する。
 人道原則とは,一人一人の人間の生命,尊厳及び安全を尊重することである。公平原則とは,国籍,人種,宗教,社会的地位又は政治上の意見によるいかなる差別をも行わず,苦痛の度合いに応じて個人を救うことに努め,最も急を要する困難に直面した人々を優先することである。中立原則とは,紛争時にいずれの側にも荷担せず,いかなる場合にも政治的,人種的,宗教的及び思想的な対立において一方の当事者に与しないことである。独立原則は,その自主性を保ちつつ人道支援を実施することである。

上記の「人道支援方針」を読めば、今回のアフガニスタンの混乱による難民の受け入れこそ、日本が取るべき道であることが分かると思うが、皆さんはどう考えるか。