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昨日の埼玉教研の感想

★会場となった国立女性教育会館

10月19日、第75次全国教研につながる第36回埼玉教研が開催された。会場となった嵐山町の国立女性教育会館(ヌエック)であるが、内閣府の説明では機能としては現在地に残されるものの、宿泊棟、研修棟、体育施設等は撤去される方向で議論が進んでいる。地元の嵐山町議会では、全会一致で施設の存続意見を提出しており、今後の動向が注目される施設となっている。

さて、開会行事の冒頭、羽田埼玉高教組委員長の挨拶の中で、特別支援学校分校が本校との分離教育を前提としたものであり、本来のインクルーシブ教育とはかけ離れたものになっているとの懸念が表明された。教組の鳥羽教文部長からは、不登校児童生徒が11年連続過去最多となっている学校現場で、「カリキュラム・オーバーロード」により教員も生徒も疲弊している現状が報告された。子どもを主体としたカリキュラムづくりや教育実践の発信、協力・協働による職場環境の充実が求められる。

★「殺伐の 社会に在れど 明日も吾 真実一路 花咲く日まで」

午前中の記念行事では、今年の3月に亡くなられた石川一雄さんへの追悼の意を込め、講演会と一人芝居が行われた。講演会では、部落解放同盟埼玉県連合会書記長の小野寺一規氏を迎え、「狭山事件と狭山闘争〜第4次再審請求に向けて」とのテーマで、狭山事件の解説と、再審請求の難しさについての話があった。

狭山事件とは、今から60年以上前の1963年、埼玉県狭山市で女子高生殺害の疑いで、被差別部落出身の石川さんが逮捕されたことに始まる。その後、警察による自白の強要や証拠品の捏造等によって、浦和地裁では死刑、控訴審でも無期懲役刑が確定し、石川さんはその後1994年まで31年7ヶ月間にわたって拘置所・刑務所で生活することとなる。上告審が棄却された1977年から再審請求が始まるが、第1次、第2次とも棄却、第3次請求は、受理され審理が始まるも、今年3月の石川さんの死去で打ち切りが決定している。

そもそも再審請求の条件として、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」(刑訴法435条6号)に限られており、60年以上前の事件の証拠集めが困難を極めることは想像に難くない。実際2017~21年に再審請求をしたのは約1160人で、再審開始の決定が出たのは13人。単純計算で1%程度である。

講演の中で、小野寺氏は万年筆の成分や脅迫状の文体・筆跡の齟齬を取り上げ、第4次再審闘争勝利に向けて力強く語られていた。狭山事件は警察の取り調べや冤罪、部落差別、裁判制度など多くの課題が含まれている。人権教育、主権者教育に携わる教員だからこそ、きちんと学習し、生徒へ共有したい問題である。

後半は、埼玉県上尾市で定年まで中学校の教員を務め、埼玉県教組のOBでもある岩崎正芳さんの一人芝居「石蕗の花〜石川一雄・短歌に託して〜」が披露された。石川さんが獄中で言葉を覚えながら詠んだ短歌への思いを、迫力ある動きとセリフで見事に再現されていた。

★活発に行われた分科会

午後は平和教育、人権教育、教科教育、教育条件整備など6つの分科会に分かれ、小中高特支の学校種の壁を超えて教育実践を持ち寄り、活発な議論が行われた。平和教育の分科会では、日中韓の平和教材の実践交流会や1993年から続く「坂戸鶴ヶ島地区原爆絵画展」、毛呂山町・比企地区の戦争遺跡、世界情勢から考える核兵器開発・核抑止論など、多様なレポート報告があり、時間ギリギリまで議論が続いた。取っ付きにくい平和教育へのお祭り的なイベントの是非や、実りある歴史教育に時間を割くことができなくなっている学校現場や教員集団への懸念など、普段の職員室では聞くことのできない話が飛び交った。今回参加できなかった方も、来年の教研で、普段の学校で抱えている腹ふくるる思いをぶつけてみてはいかがでしょうか。

『ホルムヘッドの謎』

林望『ホルムヘッドの謎』(文藝春秋,1992)を3分の1ほど読む。
最初はイギリスの地図の成り立ちやラウンドアバウトの発展など興味深い内容であった。
日本人が地図を書く場合は、幅のある道を書き、交差点の目印を書くのが普通である。しかし、イギリス人は全ての通りに名前が付いているので、道路は一本の線で描き、「……Avenue」や「……Lane」といった通りの名を付すのみである。田んぼの畦道が道路となった日本と、道路の傍に住宅が建てられたイギリスの街の発展の違いに由来するものである。

『中学生の教科書』

島田雅彦・布施英利・野崎昭弘・宇野功芳・養老孟司・宮城まり子・池田晶子『中学生の教科書:死を想え』(四谷ラウンド,1999)をパラパラと読む。
各界の一流の専門家が言語や美術、数学、音楽、理科、社会、道徳の項を分担され、中学生向けに平易な文章で、「死」に関連した文書を寄せている。中にはどこか別の雑誌に掲載されたようなちぐはぐな内容もあり、寄せ集め感は拭えない。

版元の「四谷ラウンド」という出版社であるが、2000年前後に創業され、10年ほどで倒産されている。社長だった田中清行さんが気になる。

『高層の死角』

第15回江戸川乱歩賞受賞作、森村誠一『高層の死角』(角川文庫,2015)を読む。
1969年に発表された推理小説である。その当時は珍しかったオートロックドアや国際線の乗り継ぎなどを利用したトリックなのだが、肝心の犯人がほとんど登場せず、ホテルのチェックイン・チェックアウトのリストや時刻表の調査の場面が続くので、途中で飽きてしまった。感想なし。

『彼女は嘘をついている』

小泉知樹『彼女は嘘をついている』(文藝春秋,2006)を一気に読む。
痴漢被害で無実の罪で逮捕され、女性の自白のみの調書で起訴された男性が、2度にわたる控訴審の棄却を経て、1年3ヶ月収監され、そして再審請求を始めるまでの一連の顛末が描かれる。
警察官や検察官、裁判官どもの「事勿れ主義」な杜撰な仕事に、著者と一緒に怒りが湧いてくる。自分は果たしてどうなのか。空気を読むだけのやり過ごしな態度はどうなのか。