『東大落城』

佐々敦行『東大落城』(文春文庫1996)を読む。
1992年に文芸春秋で連載された「東大のいちばん長い夏」を大幅に補筆・加筆したものだが、内容はさておき四半世紀以前の事件を細かいディテールまで丁寧に描いている。回想シーンが適宜挿入され、ルポルタージュとしては一流のものであろう。しかし当時東大「落城」にあたって、機動隊の指揮を担当した警備第一課長であった作者の目を通しているので、黙々と任務を遂行する機動隊の活躍を男気に描き、学生運動の影で暗躍する公安部の姿は省かれている。しかし当時の状況を鑑みるに、あくまで「特別警察」である機動隊が存在しなかったら、「軍隊」の自衛隊が出ざるを得ず、「天安門事件」のような最悪の事態を招いたであろうという指摘は、自衛隊が海外の「戦闘地域」へ派遣されてしまう現在においてもいろいろと考えさせる。また「全共闘世代が全共闘運動の総括をする勇気を欠いたことから、平成世代との間にはジェネレーション・ギャップの深い断層が横たわっている」という意見には頷かざるを得ない。

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