高橋昌郎『福沢諭吉:明治知識人の理想と現実』(清水書院 1978)を読む。
福沢諭吉の人物伝であるが、後半は福沢諭吉の宗教観について丁寧に説明されている。福沢諭吉に関する本というと、慶応大学出身者の手による諭吉礼賛のものが多い。しかし、本書の著者高橋氏は東大出身であり、福沢諭吉の時流の判断ミスや思想的限界について指摘する。
福沢諭吉というと、江戸時代以前の儒教精神を完全に否定し、キリスト教や西欧資本主義を積極的に受容していたというイメージがある。しかし、明治の後半に入り、農家の没落や貧富の差の拡大を目の当たりにし、宗教的なバックボーンに根ざした「独立自尊」のあり方を説くようになる。
閉校寸前にまで追い込まれた慶應義塾の立て直しや、教科書を用いた授業のスタイルの確立、田舎の子どもたちにこそ教育が大事だと述べるなど、教育者としての福沢諭吉の顔が理解できた。