『透明な遺書』

内田康夫『透明な遺書』(講談社 1994)をだいたい読む。
「長編本格推理」と銘打ってある通り、政界の収賄疑惑やリゾート開発に、現職警官の犯行や暴力団問題なども絡んできて、1992年当時の新聞を賑わせたテーマが盛り込まれている。しかし、内田氏の持ち味である旅情気分を味わうことも歴史の闇に惹き込まれることもなく、最後は飽きてしまった。
四半世紀前の本であるが、政界の汚職の証拠を握った登場人物の次のやりとりが印象に残った。今の安倍総理に関するモリカケ問題と北朝鮮報道をそのまま評している。

「(告発する)機は熟しすぎるほど熟しています。この機を逃せば、あるいは永久にチャンスを逸するかもしれません。人の気持ちは移ろいやすいものですからね。現に、国会やマスコミの関心はすでに勢和疑惑から離れて、平和維持軍に自衛隊を派遣するかどうかに移りつつあります。」
「そうですな。いつの場合もそうでしたな。何か体制側にとって都合の悪い不穏なことが起きると、それを上回る話題を作って、そっちへ関心を振り向ける。どこの国でも、それが政府のやり方です。そのうち、国家非常事態宣言などというものまで飛び出すかもしれない」