上坂冬子『戦争を知らない人のための靖国問題』(文春文庫 2006)を読む。
先ほど読み終えた『棄霊島』の中で、「靖国の参拝は素朴な信仰や慣習の問題であって、政治とは切り離すべきだ」うんぬんという話があった。特に何かを主張するような話ではなかったので読み過ごしたが、戦時中の歴史の一環として興味が沸いたので手に取ってみた。
新書なので1時間ちょっとで読み終わった。上坂さんは数年前に亡くなっているが、存命中は福田官房長官(当時)の私的懇談会としての「追悼・平和祈念のための祈念碑等施設の在り方を考える懇談会」の委員を務めるなど、靖国神社問題についての著書も多い。
上坂さんの考えは、戦犯処刑者といえど、日本国家にとっては立派な貢献者であり、政府としてきちんと追悼すべきだという点にある。かといって、いたずらに別の国立追悼施設を建設するというのでは、これまで参拝を続けてきた老遺族を冷酷にも切り捨ててしまうことになり兼ねない。政教分離の原則があるので、靖国神社の祭神の資格や合祀の基準を明快にし、国家護持という形に整えるべきであると述べる。また、どうしても国立追悼施設を作るのであれば硫黄島が良いと付け加えている。
東条英機個人の政治判断や東京裁判を巡る事実認定など、一方的な史料や聞き取りのみで主張を展開しているので、歴史認識や議論の中身以前の問題にぶつかってしまうのだが、主張は一貫としていて分かりやすかった。一般的な神社でも国立機関でもない靖国の微妙な立ち位置は理解することができた。