『贄門島』

内田康夫『贄門島』(文春文庫 2006)を読む。
初出は『週刊文春』(2001.9〜2002.11)に連載された小説である。上下巻で読み応えがあったが、一気に読み終えてしまった。
房総半島の南端沖に浮かぶ美瀬島という架空の島を舞台にした推理小説である。フィクションなのだが、2001年・2002年当時の北朝鮮拉致問題の状況や、北方四島に絡む鈴木宗男代議士の斡旋収賄容疑などのタイムリーな事件を踏まえつつ、内田氏自身の政治的な考えも披瀝されている。
最後にあっと驚く結末が用意されており、推理小説の範疇を超え、広く社会問題に関心を投げ掛ける政治文学と言ってもいいくらいである。
文庫本の「自作解説」の中で作者は次のように述べる。

 ある時期から−−というより、かなり初期の段階から、僕の作品の傾向は変化してきている。最初の頃は、ごく個人的な怨恨や欲望が犯行動機を形成していたのだが、そうではなく、背景にある大きな社会的なものの存在が、事件に影を投げかけている作品が好きになってきた。トリックの面白さや不気味さだけのミステリーに飽き足らなくなったと言ってもいいかもしれない。推理を伴った物語全体の面白さこそが「推理」+「小説」の本旨だと思えるのである。
 「社会派」というジャンルがあるが、僕は意識して社会派であろうとは思わない。ふつうに推理小説を書いていて、その結果、社会派風に読まれることはあるかもしれないが、それが喜ぶべきことなのか、不本意なことなのかも、よく分かっていない。(中略)
 とはいえ『贄門島』は、僕のいわゆる社会派的傾向の作品のひとつの到達点として、僕なりの記念碑的な想いを抱いている。

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