小倉昌男『福祉を変える経営:障害者の月給一万円からの脱出』(日経BP 2003)を読む。
10年ぐらい前、社会福祉士の試験を受けた時に購入し、ずっと本棚に眠っていた本である。
著者の小倉氏は「クロネコヤマトの宅急便」の開発で当時の運輸省や郵政省と闘った経験から「規制撤廃」の実行者として知られている。小倉氏は、1996年に会長を退任した後、私財を投じて立ち上げたヤマト福祉財団の理事長に専念し、無報酬で障害者の自立支援にあたってきた。残念ながらこの本が刊行された2年後に亡くなってしまったのだが、商売を成功に導くことで、障害者の地位や賃金を向上させ、引いては福祉全般を資本主義のルールで支えていこうという著者の思いがよく伝わって来る内容であった。
書き下ろしではなく、障害者施設の関係者向けのセミナーのレジュメを活字化したもので、同じような内容の言い回しが重複するところが散見されるが、具体的な事例の紹介であったので、すーっと読むことができた。
著者は、福祉のバザーでしか売れないような小物を作って、障害者の「居場所」を確保するだけの共同作業所や、「福祉的就労」と称して、障害者の能力を下に見て新聞の折り込みやボルト打ち付けなどの下請けの仕事しか扱わない施設のあり方に疑問をぶつける。
——いま、障害者に必要なのは、社会に出て健常者と肩を並べて仕事をし、自立できるだけの給料をとる仕組みをつくることではないか。それが真のノーマライゼーションだろう。ならばその手始めとして、障害者が集う共同作業所を改めて「仕事の場」と位置づけ、ちゃんとおカネが稼げるところにすべきではないだろうか。作業所の実態が、障害者のデイケアが目的、というのはいくらなんでもおかしい——。
今まで当たり前と思っていた現実を「自分の感覚」で捉え直し、ストレートに怒りをぶつけていくという小倉氏の姿勢は、経営者という枠組みに留まらず、どんな時代や分野、立場においても大切にしていきたいと思う。