地理歴史科教育法 第2課題

高等学校学習指導要領「日本史A」

一 科目の性格と目標
「日本史A」は,政治や経済のみならず,民族や宗教,環境など地球規模で考えるべき社会問題が山積みのこれからの国際社会の中で,主体的に生きていくことが求められる若い世代に,わが国の歴史の展開について,特に近代社会が成立し発展する過程に重点をおいて,考察し,世界史的な視野に立って理解させることを狙いとした科目である。
また,目標の中に「地理的条件や世界の歴史と関連付け,現代の諸課題に着目して考察させる」とあるように,世界史や地理との関連性に留意して学習を進めるとともに,現代の社会やその諸課題が歴史的に形成されたとの見地に立って,「調べ考える」ことを重視している。

二 内容とその取り扱い
(1) 私たちの時代と歴史
文献や地図,写真,映像,統計,グラフなどのほか,博物館や郷土資料館などにある諸資料,身の回りの生活文化や地域の文化財,地名等,様々な歴史的資料を活用して,近現代の歴史的事象と現在との結び付きを考えることで,歴史への関心を高め,歴史を学ぶ意義に気付かせる。
(2) 近代の日本と世界
19世紀後半の明治維新前後から第二次世界大戦の終結までを扱う。日本は中央集権国家のもと資本主義経済の発展と相俟って大きな成長を遂げるが,世界経済の混乱等の中で全体主義へ転換し,戦争に突入していった。そうした流れの政治や経済,国際環境,国民生活や文化の動向を考察させる。
ア 近代国家の形成と国際関係の推移
開国から明治維新を経て,大日本帝国憲法成立に始まる近代立憲国家の成立を考察させる。単に暗記事項の羅列に留まらず,自由民権運動の隆盛や欧米諸国の圧迫,アジア諸国への強権的な対応など,複眼的な視線が求められる。また,日清・日露戦争による国民国家Ideologieの醸成と,政党政治の進展に注意を払う必要がある。
イ 近代産業発展と両大戦を巡る国際情勢
産業革命以降,金融制度が確立し,交通・通信の普及・拡大など,一つの工場における技術革新を超えて,社会革命に至った経緯を具体的に考察させる。都市や農村の生活の変化や社会問題の発生,学問や文化の進展,教育の普及,大衆社会と大衆文化の形成など,時代的背景に則して指導する。また,世界大恐慌を経て,国内経済の飽和が引き金となり,アジア近隣諸国との摩擦を生んできた状況を理解させる。
(3) 現代の日本と世界
第二次大戦後の政治経済,国際環境,国民生活や文化の動向について,国際社会における日本の立場を踏まえて,現代の諸課題と近現代史との関連を考察させる。
ア 現代日本の政治と国際社会
San Francisco平和条約の締結と日本国憲法の制定による平和で静穏な独立国家への希求と同時に,日米安保条約や「国際社会」への貢献という相反する舵取りを強いられてきた日本の政治の難しさを考察させる。
イ 経済の発展と国民生活の変化
戦後の窮乏から特需を経て,高度経済成長を遂げ,世界有数の経済大国となった経緯と,農村の過疎化や公害などの負の側面に留意して,国民の生活意識や価値観の変化を捉えさせる。

三 指導計画作成と指導上の配慮事項

  1. 中学校の授業や「地理」「世界史」の授業との関連を留意し,国際環境や地理的条件の観点から,世界の中の日本という視点から考察させる。
  2. 学習した内容が実社会・実生活の場面で生かすことができるように,基礎的な事項・事柄を精選して指導する。
  3. 地域の文化遺産,博物館や資料館の調査・見学などを取り入れ,抽象的な概念の操作だけに終わらせず,教室の外や卒業後まで歴史の学習を実体化させる工夫が求められる。
  4. 近代以降,自動車道や鉄道の敷設,高層住宅や団地の開発など,国民の日常生活が大きく変貌するような技術革新が続いている。衣食住や風習,信仰などの生活文化と近代のあり方を,作業的,体験的な学習を通して,多角的に理解させることが大切である。
  5. 近現代の学習にあたっては,現実的な利害や思想,宗教,価値観の対立が複雑に絡んでおり,歴史的事実を一面的に取り上げたり一つの立場からのみ理解させたりすることは避けたい。核兵器や戦争,「民主主義」など多面的な課題を平和裡に解決するための歴史的思考力を養うことが求められる。

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