日別アーカイブ: 2019年11月15日

『東京は郊外から消えていく!』

三浦展『東京は郊外から消えていく!:首都圏高齢化・未婚化・空き家地図』(光文社新書 2012)を読む。
中学校や高校の授業では,都心の過密化に伴う郊外へのドーナツ化現象や,郊外に移転できない低所得者層が都心部周辺に居住するインナーシティ問題,タワーマンションに象徴される近年の湾岸エリアの再開発や都心回帰など,都市型ライフスタイルを公式化された定理のように類型化して学ぶ。

本書では,首都圏を都心3区や城南4区,横浜東部京急線沿線,東急田園都市線沿線,中央線多摩,南武線,さいたま市,埼玉南部など,一都三県を29のブロックに区分し,さらに性別や世代,未婚既婚,子どもの有無,職場との距離や親との同居などでクラスターを分け,それぞれのクラスターの消費行動や地域活動の参加状況について検討を加えている。

著者によると,既存の都心部がチェーン店やショッピングモールによって郊外化され魅力を失っていたり,逆に郊外同士の差異化による新たな魅力が誕生していたりして,人口減少の時代ゆえの新しい首都圏の姿が浮かび上がってくる。最後に著者は次のように述べる。

不動産価格が上昇している時代には,家はどんどん売られていき,結果として住宅地全体としてちぐはぐな,バランスの悪いものに劣化していった。
しかし今後は,不動産価格が低下し,売ってももうからないじだいだからこそ,不動産をコミュニティ全体のために活用するという選択肢が可能になるのである。すぐれた住宅地マネジメント組織が,オールドタウンからゴーストタウンになる危機に瀕した住宅地をゴールドタウンに変えていくなら,日本の住宅地の未来は明るくなっていくであろう。

『父 吉田茂』

麻生和子『父 吉田茂』(新潮文庫 2012)を読む。
著者存命中の1993年に刊行された本の文庫化である。文庫のあとがきには著者の長男の麻生太郎氏が寄稿している。

吉田茂というと「ワンマン宰相」であり,自民党の親父的なニュアンスで巷間伝えられている。しかし,政治的には確固たる信条を持ち合わせており,とりわけ再軍備については「満州事変」の繰り返しになることを恐れ,愚の骨頂だと断じている。ダレス国務長官の再軍備の提案も頑固に突っぱね,米軍の庇護のもとに一刻も早く独立を果たし,経済で勝つ日本を目指した。

また,共産主義嫌いでも知られ,「共産主義に対する,いちばん大きな歯止めが農地改革なんだよ」と繰り返し口にしていたとのこと。地主の所有する代々の土地を強制的に取り上げ,農民に分配するというのは保守政治家の選ぶ政策ではない。しかし,吉田は「農地改革というものをやって,みんながそれぞれ自分の土地をもてるようにすれば,誰も土地を共有のものにしようなどとは思わないはずだ」との目論見で,自由党内からの反対も抑え込んでいる。
そうした彼の政治姿勢に照らしてみると,彼の有名(?)な「若いときに共産主義にならないのはバカだけど,年取ってからなお続いて共産主義であるのはもっとバカだよ」のセリフの意味が分かってくる。

吉田家の養子として育ち,大久保利通の孫娘を嫁に貰いながら,金銭的には相当苦しかったようで,自分の娘の嫁ぎ先の麻生家の援助で政治家人生を食いつないだ人物で,古き良き自民党の政治家だったと思う。吉田が様々な手管で地元の有権者の買収に熱を上げる昨今の政治家を見たらどう思うだろうか。

昭和天皇やマッカーサー,鈴木貫太郎,幣原喜重郎,鳩山一郎,池田勇人,佐藤栄作ら,時代を彩る政治家との私的な交流の場面が興味深かった。しかし,東条英機や岸信介については一言も触れられていない。個人的な確執があったのだろうか。