下川裕治『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』(新潮文庫 2011)を読む。
かなり厚手の文庫本で読み応えがあった。タイトルにもある通り,ユーラシア大陸を東端のロシアから西端のポルトガルまで,行き当りばったりな鉄道旅行冒険記である。
著者の苦労話よりも,車窓からの風景を描写の方が面白かった。中国の岩石砂漠や中央アジアのとうもろこし畑,ヨーロッパのぶどう畑など,東から西への移動に合わせて農作物も変化していくという点に興味を感じた。
また,途中ロシア南部のチェチェン共和国の独立問題を巡って,隣国のタゲスタン共和国で爆破テロに巻き込まれ,アゼルバイジャンのバクーまでの鉄道移動がストップしてしまう。ローカル鉄道を愛する著者ならではの現地で暮らす住民の視点から国境封鎖やイミグレーションの強化の背景が語られる。
中国の富裕層に合わせて都市の風景が変わっていく新疆ウイグル自治区の中心のウルムチや,トルコとアゼルバイジャンの緊密な関係の裏で,アルメニアとロシアの接近,ヨーロッパ寄りのジョージアの南部にある南オセチアにロシア軍が肩入れする理由,EUに加盟するしか方法がないブルガリアの国情など,読者もローカル電車に揺られながら,ゆっくりと国際情勢について整理することができた。是非他の著作も読んでいきたい。