月別アーカイブ: 2019年8月

「トウモロコシ畑の奇跡」

本日の東京新聞朝刊に,乗客230人を乗せた旅客機が突発的な事態で,モスクワ郊外のトウモロコシ畑に突っ込んだものの,奇跡的に一人の死者も出すことなく無事に胴体着陸したとの記事が掲載されていた。

記事を読んで,はてと思った。とうもろこしは乾燥に強いものの寒冷には弱い作物である。亜寒帯気候のモスクワでトウモロコシが栽培されていたのであろうかと疑問に思った。
調べたところ,確かにトウモロコシは中米原産で,温帯から熱帯にかけての土地で栽培され,栽培期間中(90日〜150日)は日平均気温15℃以上、最低気温10℃以上で霜の降りない事が条件となる。また,低温と霜には,非常に感受性が高く,発芽適温は18~20℃となる。モスクワの年間降雨量は平均して700mm程度あるものの,年間平均気温は約5℃しかない。
いったい,亜寒帯気候のモスクワはトウモロコシの栽培条件から外れるのではないか。

そこで,ネットでモスクワの雨温図を調べたところ,下記のようなグラフ図であった。

モスクワの雨温図

モスクワのハイサーグラフ

モスクワは内陸性(大陸性)気候のため,年較差が大きく,冬は寒いが,夏は暑いという特徴を持つ。グラフをよく見ると,冬は北海道以上に冷え込むが,6月〜8月の平均気温は20度近い。おそらくは,栽培期間の短い種を使用し,8月下旬あたりには収穫してしまうのではないだろうか。もし来月不時着していたら,大惨事となっていたであろう。
トウモロコシの栽培限界を考えた時,トウモロコシ畑という場所の奇跡だけでなく,収穫前であったという時期の奇跡も見えてくる。

『人体再生』

立花隆『人体再生』(中央公論新社 2000)を手にとってみた。
本論の方は専門用語がたくさん出てきて読みきれなかったが,立花氏の解説が分かりやすくて,何となく全容を理解した気になってしまった。

序章の中で,本人の幹細胞や高分子化合物などを用いて,欠損した組織を自身の細胞の力で再生させる再生医療の最前線について論じている。心臓移植や肝臓移植などの移植医療は一般的だが,一生免疫抑制剤を飲み続けなくてはならず,著者は前世紀の技術であると断じる。

当時最先端であった,ティッシュエンジニアリング(生命工学と医学の組み合わせによる米国の再生医療)に関わっている日本人の研究者たちとの対談集となっている。20年前の本なので,iPS細胞が登場する以前の話である。しかし,当時から山中伸弥教授も在籍した京都大学の再生医科学研究所が日本の研究の中心となっている状況が理解できる。

「印パ対立激化」

本日の東京新聞国際面に,カシミール地方を巡るインドとパキスタンの軍事衝突の危険に対する記事が掲載されていた。

気になったのは,下段の記事で,カシミール地方の一部領有権を主張する中国が,インドとの対立から,パキスタンを全面的に支持しているという内容だ。パキスタンと言っても,日本人にはピンと来ない国である。砂漠が広がり,イスラム教のあまり金持ちではない国というイメージであろうか。地図を見れば分かるが,パキスタンは日本の国土の2倍の面積があり,しかもインド洋に面しており,人口も2億人近い。インド洋の経済支配を狙う中国にとって魅力的な市場である。

カシミール問題が,インドと中国の2大国の代理戦争となってはいけない。また,インド人もパキスタン人も日本にたくさん住んでおり,郊外を中心にコミュニティーも形成されているので,カシミール紛争による移民や難民が日本に大量にやって来るという事態は容易に想像できる。

「尾を引くA級戦犯合祀」

本日の東京新聞朝刊に,創立150年に合わせた靖国神社の参拝要請を宮内庁がお断りしたとの記事が出ていた。1978年にA級戦犯14人が合祀されて以来,天皇の参拝は途絶えている。記事によると,昭和天皇自身がA旧戦犯合祀に不快感を示しているとのこと。

1学期の授業で,2.26事件以降,日本がどのような経緯を経て敗戦,そして東京裁判に至ったのか,一貫してその流れで板書をまとめてきたつもりだ。
A級戦犯とは,たくさん人を殺した数で決まるのではなく,戦争を計画したり自ら主導したりした罪に問われた「指導者」のことである。東条英機ら28名が起訴され,25人が有罪となっている。決して「A級>B級>C級」という関係ではない。つまり,A級戦犯を裁くということは,日本が戦争に至った原因を白日の下に晒すという意味合いがある。逆に言うと,A級戦犯を肯定する形で祀るということは,日本が勝ち目の無いアジア太平洋戦争に突っ込んでいった歴史を隠蔽するということである。

私達が近代史を学ぶ意味は,日本だけでなく,戦争の20世紀と言われた第一次世界大戦,第二次世界大戦,その他の戦争に至った失敗の原因を理解し,これからの政治や経済,社会に生かすことである。

1985年の5月,数年前に鬼籍に入られたが,当時の西ドイツの大統領ワイツゼッカーは第2次世界大戦終了40周年演説の中で,「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目になる」と訴え、ナチス・ドイツによる犯罪を「ドイツ人全員が負う責任」だと強調している。日本人にとっての過去は東京裁判であり,サンフランシスコ平和条約以降の日本の「戦後処理」である。

今日もテレビニュースを見ていて,1965年の「日韓基本条約」という言葉を何度も聞いた。本来はサンフランシスコ以降の流れ(冷戦や日米関係,東アジア経済)の中で理解しなくてはいけない日韓関係が,コメンテーターの勝手な感想で潤色されているのが気になった。2学期以降の授業を頑張らなくてはという気持ちになった。

さて,皆さんは皇室が靖国神社を参拝しない点についての賛否を,自分の言葉で丁寧に説明できますか。