「夢が目標に、目標が課題に、そして課題が日課になって毎日の生活の中に組みこまれていく。こうした環境に置かれた人間が強くならないはずがありません。」
上記は、今年の1月の箱根駅伝でチームを2年連続優勝に導いた青山学院大学陸上競技部の原晋監督の言葉です。目標を達成するためには、日常の生活を整えていく必要性を指摘しています。
中学校までは、学校や塾の先生からのアドバイスに従い、課されたプリントをこなしていくだけである程度の力をつけることができました。しかし、高校では教員が手取り足取りみなさんの目標や行動をコントロールすることはありません。自分の責任のもと、自分で決めた目標に向かって、自分を管理する力が必要です。校訓にある「自主自律」は、単なる自由という意味ではなく、自分で自分を支配する力です。最初は少し面倒だと思いますが、夢や目標を実現できる「習慣」を作り上げてください。
また、原監督は著書『逆転のメソッド』(祥伝社 2015)の中で、次のように述べています。
指導者向けの内容となっていますが、趣旨は理解できると思います。「陸上」を「勉強」に、「大会」を「受験」に、「4年間」を「3年間」に、体裁は異なりますが、「目標管理シート」を「スコラ手帳」に置き換えて読んでみてください。そして「神野大地」という選手名をみなさんの名前に換えて、5年後、10年後に、進学先や社会で活躍している自分のイメージに向かってください。
陸上というのはエンジンや羽根をつけたりせず、身につけるのはパンツとシャツだけで、体ひとつで走る競技であるから、第一に規則正しい生活を送らなければならない。それがベースになって初めて、練習を重ねて技術を高めていくという活動が生きてくるのである。規則正しい生活が送れるようになったら、目的を伝えてトレーニングに打ち込む。これは当たり前のことだ。その際にただ「20キロ走れ」命じるのではなしに、なぜ今の時期に20キロ走るのかという理由をきちんと理解することが大切なのである。
ただ闇雲に体力だけを鍛えることや、運動能力を高めることが指導のすべてだと思っている人が大多数だと思う。試合で結果の出なかったときには練習量が足りなかったとか、心根が悪いからとか、燃えていなかったからとか、よく言われたものだ。しかし、結果を見て調子の良し悪しを判断するのではなく、ピーキング(大切な大会へ向けてコンディションを最高の状態にもっていくように、調整すること)をトレーニングとして日頃から採り入れ、訓練する必要があると思う。
そのひとつ目が「目標管理シート」の導入である。これはA4用紙一枚に一年間の目標と一ヶ月ごとの目標、その下に試合や合宿ごとの具体的な目標を書き込んだものだ。大切なのは、自分自身で考えて目標を決め、自分の言葉で書き込むこと。これが選手の自主性につながるのだ。
また、「もう少し速く走る」といった抽象的な目標はダメで、必ず具体的な目標を書かせている。どんな小さな試合でも目標を設定させ、到達度を確認させる。部員たちは作成した「目標管理シート」を私に提出する。私はそれに目を通し、コメントを添えて返す。目標を設定して、それを実現するためにどうすればよいか考え、実行していくというスタイルは、私が営業マン時代に常にやっていたことだ。
力がなかなか伸びない選手は、実現不可能な目標を掲げるなど目標設定の仕方がうまくない傾向が見られる。たとえば、5千メートルでタイムを1分縮めるなどというのは目標ではなくて、妄想でしかない。そういう目標を書いてくる部員にはこう説明する。
「おまえな、これで、オレが一ヶ月で20キロダイエットすると宣言しとるようなもんだぞ」
一歩ではなく「半歩先」というのが私の口癖だが、壮大な目標を掲げるのではなく、手が届くところにある目標を着実に達成していくことが大事なのだ。その半歩先が積み重なったとき、4年間でものすごい成長につながっていく。