こうやまのりお『ピアノはともだち:奇跡のピアニスト 辻井伸行の秘密』(講談社 2011)を読む。
上の子の読書感想文を書くために購入した本である。辻井さんの努力や成長、感謝が全面的なテーマとなっており、どの章を読んでも感想文の材料には困らないように配慮されている。「ショパン国際ピアノ・コンクール」での最年少参加や、「ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール」での日本人初の優勝などの裏では、様々な人たちが関わり合い、そしてその期待に真摯に答えようとする辻井さんの姿が描かれている。
1歳半でピアノを習い始めたり、譜面を全く読まずに暗譜のみで1時間近い作品をノーミスで弾いたり、まさに「神童」という言葉がしっくりくる辻井さんのエピソードも数多く紹介されている。
「障害者」だからという見方は全くなく、一人の「音楽家」としての取材を続けている著者の思いもよく伝わってくる。
月別アーカイブ: 2016年2月
『スーパーマリオRPG』
『箱庭』
内田康夫『箱庭』(講談社 1993)を読む。
政界とゼネコンの闇の癒着と、旅情ミステリーが組み合わさった内田作品の王道を行く長編ミステリーであった。
最後になってドタバタと話が急展開していく流れもいつも通りであったが、たった一枚の写真から芋づる式に謎が繋がっていく展開や、日本各地に点在する厳島神社のヒントなど、『天河伝説殺人事件』や『贄門島』のような、久しぶりにワクワクする作品であった。
ここ最近内田作品を読んでいると、若い浅見光彦氏の行動力に勇気をもらうようになってきた。それだけ自分が老いた証拠か。。。
『素晴らしい世界』
浅野いにお『素晴らしい世界』(小学館サンデーGXコミックス 2004)全2巻を読む。
東京都区内の小田急線沿いの町を舞台に、生きる意味や目的を見失いがちな若者たちの姿をリアルに描く。
クラスから浮いてしまっている中学生や、周りがどんどん就職していく中でダラダラと日常を送るフリーター、いつまでも芽が出ない売れない漫画家、将来に明るい希望も見出せず勉強も捗らない浪人生など、社会への違和感や自身の存在への不安を抱える若者の群像劇となっている。
先日読んだ「ひかりのまち」とよく似ているのだが、こちらの方は最後は生きる熱意や生きることへの肯定的な結末で締めくくられており、読後感が大変良かった。アマゾンのレビューを見ると賛否両論あるようだが、タイトル通りの素晴らしい作品だった。
かつて自分が浪人生の頃に感じていた「置いていかれる」「進んでいかない」という、胸につっかえるような、将来の全てを司るような真っ黒い不安を思い出しながらページを繰っていった。出来得ることならば、20数年前の自分に渡したい一冊である。
われらがわれに還りゆくとき
元プロ野球選手の清原容疑者の逮捕のニュースで、テレビも新聞もネットも大騒ぎの一日であった。
そんな中、本日の東京新聞夕刊の文化欄の連載特集「一首ものがたり」で、道浦母都子さんが取り上げられていた。
1968年10月21日のベトナム戦争反対を訴える国際反戦デー、世に言う新宿騒乱事件で逮捕された道浦さんが読んだ歌
調べより 疲れ重たく 戻る真夜 怒りのごとく 生理はじまる
に込められた作者の思いと時代的背景が分かりやすく解説されている。
最後に道浦さんは次のように語る。
結局、人間はひとりなんです。だけど、あるとき「われら」の幻想を抱いた。つかの間の幻想でした。全共闘って何か、わからない。一生わからないと思います。