月別アーカイブ: 2014年8月

経済学史 第2課題

貨幣論・金融論
 Smithによれば,貨幣とは「流通の大車輪にして,商業の偉大な用具である」であり,金属貨幣に代替する紙幣については,「経費のずっとかからない便利な道具」であると述べる。さらに,金銀貨の価値を保証する紙幣を市場に円滑に,かつ十二分に流通させ,経済活動水準を高める銀行業の役割を取り上げる。そして,紙幣の供給の過剰が金融危機を招いた事例を挙げ,銀行業の政府による規制の必要性を説く。

生産的労働と不生産的労働
 生産的労働とは,製造工のように,資本によって雇用され,利潤を付加して再生産される労働である。これに対して,不生産労働とは,家事使用人や官吏,軍人等のように,収入によって雇用され,消費するだけで何も残さない労働である。「資本が優勢なところでは勤勉が広がり,収入が優勢なところでは怠惰がはびこる」とSmithが述べたように,国家財政を視点にすると,生産的労働者が多いほど,資本が毎年再生産され,富裕が実現される。

資本蓄積論
 Smithは「全ての浪費家は公共社会の敵であり,節約家はすべてその恩人である」と述べ,生産的労働者を雇用する資本は,人々の貯蓄によって増大し,浪費によって減少するため,浪費を断罪している。また,「国王や大臣こそ,常に例外なく社会における最大の浪費家なのである」と述べ,特に公的浪費=戦争こそが最大の国家破滅の要因だと断じる。さらに,「自分の生活状態の改善をめざしての,あらゆる人間の画一的な恒常不断の努力こそは,…政府の濫費や行政上の最大の過誤にもかかわらず,改善をめざす事物自然の進歩を維持するにたりるほど強力な場合が多い」と,重商主義を遂行するための戦争による政府の浪費が,たとえ富裕の自然的進歩を遅らせるとしても,個人の節約と善行が,あらゆる浪費を償ってきたのである。

重商主義批判
 重商主義政策は,国内の特定産業による国内市場の独占を招き,商品価格と利潤率とを著しく引き上げ,他産業から資本と労働とが当該産業に片寄る結果となり,自由競争によって実現される自然な資源配分を妨げ,資本蓄積を妨げて富裕の進歩を遅らせることになってしまう。資本を有する各個人は,人為的な政策の妨げがなければ,社会の利益などではなくて単に自分の利益だけを追究して,資本を最も有利な方法で用いようとするものであり,その結果として,全生産物の価値と社会の収入とは最大になるのである。Smithは,道徳的感情に規制された個人の利己的な行動が,社会全体に寄与し,自然的秩序による社会が形成されるという考えのもと,重商主義に見られる個人の経済生活に対する政治の介入を厳しく否定したのである。

「見えざる手」 
 「外国の産業よりも国内の産業を維持するのは,ただ自分自身の安全を思ってのことである。そして生産物が最大の価値をもつように産業を運営するのは,自分自身の利益のためなのである。だが,こうすることによって,かれは,ある見えざる手に導かれて,自分では意図していなかったある目的を促進することになる」
 『国富論』の中では上記のように述べられており,人間生来の賢明さを前提とし,決定論的・予定調和的なキリスト教的な考え方に根ざしたものである。

自由貿易論
 Smithは,自由放任主義者と捉われる節もあるが,国内経済を混乱させない程度の一定の関税と輸出奨励金を認めていた。そして,「植民地貿易の排他的独占を許している諸々の法律を適度に漸次的に緩和」し,「完全なる自由・正義の自然的秩序」を実現するための過程において政府の規制・介入の必要性を述べる。また,「消費こそは全ての生産にとっての唯一の目標であり,かつ目的である。従って,生産者の利益は,それが消費者の利益を促進するのに必要な限りで配慮されるべきものである」と述べ,生産者の利益を保護する重商主義を厳しく批判している。

自然的自由の体系
 輸入制限と輸出奨励策が漸次的に全て撤廃され,自然的自由な社会が実現されるならば,国家は防衛・司法・一定の公共事業を担うだけで,各個人は「正義の法を犯さぬかぎり」完全自由に委ねられるべきものである。

財政論
 Smithの財政政策は,いわゆる「安上がりの夜警国家」として巷間知られるが,自然的自由の体系を実現するための障害は政府の叡智によって除去して行くべきだと何度も強調している。すなわち司法による正義の実現や国防,教育制度,貧困対策などは,「利己心に基づく分業という文明社会の大原理に対する顕著な例外」であるとしている。特に教育については,単純作業が人間を愚鈍・無知にし,精神を麻痺させ,判断力もなく武勇の精神も朽ちさせてしまうと分業による非人間的なマイナス面を指摘し,政府による「全人的」な教育政策の配慮を強調している。

『ケインズを学ぶ』

根井雅弘『ケインズを学ぶ』(講談社現代新書 1996)を読む。
経済学史でケインズの『一般論』のレポートを書くために手に取った。
ケインズといっても、新聞やテレビニュースレベルの知識では、不況期において政府主導の公共投資を拡充し、有効需要を増やすことで失業率を減らし、金融緩和を行うことでインフレに導くことを主張した経済学者ということぐらいしか知らなかった。

高校生向けの分かりやすい内容という触れ込みだが、読み込むのに苦労した。前半はある程度の世界史の知識が求められ、後半はケインズの「乗数理論」の説明に展開式が入ってくる。しかし、イギリスの政治に深くコミットし、第1次大戦、第2次大戦を通じて英国の外交交渉に携わり、経済学を一時代の一地域のみでしか通用しない「特殊」な「法則」から、どの時代のどの地域でも使える「一般」的な「科学」へと押し上げた功績を否定できる者はいない。ケインズ理論の詳細はよく分からないままであったが、彼の筋の通った生き方はよく伝わってきた。

著者の根井氏であるが、1962年生まれなので執筆当時34歳である。経歴検索すると、38歳で京都大学経済学部の教授となっている。世の中には天才がいるものだと感心すること一入であった。

成田山新勝寺

仕事の関係で成田に来ている。
本日の夕方少し時間があったので、成田山新勝寺を参詣した。台風11号の影響で、途中通り雨に祟られたが、ゆったりと本堂を回ることができた。
長い歴史はさておき、とりわけ目に留まるような豪壮な建物があるわけではない。しかし、成田駅から車で向かう途中の土産物屋やうなぎ料理屋の数にはびっくりした。おそらくは神奈川県・大山阿夫利神社と同じく、江戸の人々のお清め目的の参拝としてちょうど具合のよい場所にあったのだろう。事実、江戸から成田山に向かう成田街道の途中には歓楽街で名を馳せた船橋宿がある。
疲れが澱のごとくたまった心身の一時の気晴らしにはなった。

 

 

経済学史 第一課題

スミスの『国富論』第1編を説明せよ。

序論
 Smithは『道徳感情論』の中で,経済人の利己的な行為が自ら企図せざる結果を生むとし,重商主義や重農主義を批判した。「序論」の中で,国民の富とは「国民が年々消費する生活の必需品と便益品の全てを本源的に供給する元本」であると定義づけ,富の源泉は労働であり,富とは消費財であるとした。さらに,そうした富の増大は,分業と生産的労働者の2つの要因で規定されるものである。

分業論
 Smithによれば,文明社会における労働生産力の増大の最大原因は分業である。18世紀に入り工場制機械工業が導入されると,全行程を一人の職人に担当させるよりも,作業行程を分割し単純化させた方が労働生産性が飛躍的に高まることが明らかになってきた。Smithによると,当時の英国は「(文明国の)農夫の暮らしぶりが,1万人もの野蛮人の生命と自由の絶対的支配者たるAfricaの王侯の暮らしぶりを凌ぐということは真実だろう」と,分業による生産力の増大によって最貧層の者でさえ豊かな消費財を享受していた。

利己心論
 Smithによると,多くの利益を生む分業の原理は,人間本性の「交換性向」と利己心にある。「自分に有利となるように仲間の自愛心を刺激することができ,そして彼が仲間に求めていることを,仲間が彼のためにすることが,仲間自身の利益にもなるのだということを,仲間に示すことができるなら,その方が目的を達しやすい」と述べるように,人間社会は一方乃至他方の博愛心ではなくて,相互の利己心に基づくGive & Takeによって,結果的にWin-Winの関係が成立しているのである。

価値論
 Smithは分業と交換が発展していく中で,物々交換の不便さを解消するために貨幣が用いられた過程を分析し,「貨幣はすべての文明国民において商業の普遍的用具となった」と述べ,貨幣は商品の交換価値を評価する価値尺度として機能するとした。さらに,使用価値は持つが交換価値はほぼない水と,使用価値はないが交換価値は極めて高いdiamondの逆説を例に出しながら,交換価値を決定する法則を決定する必要があるとした。

労働価値説
 Smithは交換価値の尺度について2つの定義を示している。1つは投下労働説と呼ばれ,「あらゆる物の実質価格,すなわちどんな物でも人がそれを獲得しようとするにあたっては真に費やさせるものは,それを獲得するための労苦と煩労である」と定義付けされる。つまり,その商品の生産に投下された職人たちの賃金に加え,利潤や地代をも含めた労働力の総量である。特に,労働の全生産物が労働者に属するような未開社会では投下労働説の妥当性が見いだしやすい。
 もう1つは,支配労働説と呼ばれ,「ある商品の価値は,…他の商品と交換しようと思っている人にとっては,その商品でその人が購買または支配できる他人の労働量に等しい。それゆえ労働は全ての商品の交換価値の尺度である」と定義付けされる。つまり,その商品によって支配できる労働力の総量を示している。近代社会では労働の生産物が一人の職人に帰属されるものではなく,労働者は賃金を,資本家は利潤を,地主は地代を得るようになり,商品の価値は,賃金と利潤と地代の分配の構成で決定されるので,支配労働説の方が商品価値の説明としては分かりやすい。

自然価格論
 Smithによれば,一般的に商品の自然価格は,労働量(賃金)・利潤・地代の自然率から構成される。市場に供給される商品の価格が,生産に用いられる価格と過不足なく一致している時に,その商品は自然価格で販売される。これに対して,商品が通常に販売される現実の価格を市場価格と言い,自然価格と市場価格の関係は,商品の供給量と有効需要の割合によって決定される。供給が需要よりも少ない場合,市場価格は自然価格よりも上昇し,供給が需要を下回る場合,市場価格は自然価格よりも下落する。さらにSmithは「自然価格はいわば中心価格であって,そこに向かって全ての商品の価格が絶えず引きつけられる」と万有引力の法則を援用し,自然価格は,各商品の需給均衡,各部門間の利潤率均等化の機能を果たし,そして要素の最適資源配分を達成する価格であると述べる。

分配論
 Smithによれば,賃金は労働者の生産物から地代と利潤とを控除した残りの分である。北米や英国など,国民の富の増加が急速な国では,労働需要の増加が大きく,賃金は最低率を大きく越えて高くなる。高賃金は労働者の勤勉を刺激する。そして高賃金は商品価格を上昇させるが,一方で資本蓄積による労働生産力の増進は,生産に必要な労働量を減少させて価格を低下させる。また,資本の増加は,賃金の引き上げと同時に利潤率を引き下げる傾向にある。Smithによれば,資本蓄積の進んだ国ほど,利潤率は低いが豊かである。生産と分配における労働者・資本家・地主の3大階級と,それに対応した賃金・利潤・地代という要素間の相互の収支関係が古典派経済学の基本的な枠組みとなっている。

地誌学 第2課題

【北Eurasia】
 ほぼ東経60度の経線に沿って,Ural山脈が走っており,西側は標高300m以下の東Europe平原が広がっている。東側からEnisei川にかけては西Siberia低地が広がり,Enisei川以東からLena川にかけて中央Siberia高原がある。Lena川以東は新期造山帯となり,北米・太平洋Plateの境界に位置するKamchatka半島では地震活動が活発で,約30の活火山が世界自然遺産に登録されている。気候的には大半が冷帯気候に属する。国土の約3割で1月の平均気温が-30度を下回り,結氷期間は半年以上にわたる。気温の年較差が大きく,東Siberiaでは60度以上にも及ぶ。国土の大半はTaigaと呼ばれる針葉樹林に覆われ,北極海沿岸は蘚苔や地衣類が生育するTundra帯である。Russia南西部や南部の国境地帯のSteppe気候地域に人口が集中している。また,TaigaやTundaraが広がる地域は永久凍土となっており,その南限は1月の-20度の等温線とほぼ等しい。
 Russiaは,世界でも有数の鉱産資源大国であり,石油や天然ガス,石炭,鉄鉱石など,主要な地下資源のほとんどの産出量が世界の上位に位置する。また,diamondやnickel,金なども豊富で,社会主義時代には,軍事力を背景にして,鉱産資源を安全に輸送するために周辺国を押さえ込み,pipelineを敷設するなどしてきた。しかし,1991年のソ連解体後,次々と周辺国が独立し,資源や国境を巡る民族・宗教紛争が頻発している。昨今のUkraine騒乱や,Chechen共和国の独立運動も,民族・宗教・言語の全ての面で統制を図ってきた旧ソ連時代の反動が続いていると分析できる。
 日本とは北方四島の帰属を巡りもめているが,旧樺太にあたるSakhalinの石油や天然ガスの多くが日本に輸出されている。

【Europe】
 気候的には,西部が暖流の北大西洋海流の影響で温帯気候,東部が冷帯気候,Alps山脈以南は地中海性気候となっている。IcelandやScandinavia半島は寒帯に属し,Fjordなどの氷河地形が見られる。
 通商貿易に依存した港湾都市が大都市となり,やがて国家へと発展した例が多い。また,言語はLatin語を基礎として発展したものが多く,ほぼ民族国家単位の国語に分かれている。Christ教を共通の文化基盤としており,言語や宗教を巡る紛争が少ない。
 そうした文化の共通性もあり,1993年のMaastricht条約の発効に伴い,EUが成立した。2014年現在加盟国数は28となり,単一通貨Euroは18カ国に流通している。
 日本との関係も深く,1860年代以降,憲法に始まり,政治や経済,学問や思想,芸術の幅広い分野で日本はEuropeの波に洗われた。

【北America】
 西部はAlaska山脈やRocky山脈などの環太平洋造山帯の険しい山脈が連なり,東部は,Labrador高原やAppalachian山脈などの安定陸隗が広がる。北緯40度以北は冷帯や寒帯,西部は乾燥帯,東部は温帯気候となっており,夏に竜巻やHurricaneが頻繁に発生し,大きな被害をもたらしている。
 北米の農業地域は,いくつかの農業地帯に区分されてきた。中西部のCorn Belt,南部のCotton Belt,年降水量500mm前後のWheat Beltが代表的である。現在,大規模な企業的農業や,乾燥地帯でもCenter Pivotによる灌漑施設が点在し,穀物majorのような商社が国際流通に大きな影響力を持ち,世界最大の農作物輸出地域となっている。
 また,北米経済は豊かな地下資源に支えられ,20世紀を通じて,石油や石炭,天然ガスなどを活用した繊維産業や製鉄業,自動車,造船業などの伝統的工業が世界を牽引してきた。20世紀末以降は,航空宇宙産業やICT産業,biotechnologyなどの先端技術産業の分野へと活路が広がっている。
 日本と米国の関係は深く,軍事,政治,経済,学問,文化,思想の全ての面で,「共依存」関係にあると言っても過言ではない。

【中・南America】
 太平洋沿岸はMexico高原からAndes山脈までの新期造山帯で,Guiana高地やBrazil高原などの東部は安定陸隗となっている。その中央部にはAmazon川流域の世界最大の熱帯雨林が広がり,地域の75%以上は熱帯に位置する。
 地域全体の共通性や同質性が強く,総人口5億6千万人のうち,約63%がSpain語を,約34%がBrazil1国であるがPortugal語を公用語としている。また,この地域の人口の90%前後がCatholic教徒である。Spain/Portugal両国の植民地支配の名残で,monoculture経済による1次産品の輸出偏重と外国資本への依存や,過剰都市化の進展や一極集中,国内の経済格差や国規模での格差の拡大が進んでいる。
 2014年8月に安倍首相がBrazilの日系社会の会合に招かれ,「絆をより太く」と発言したように,日本からの移民も,また日本への移民も数十万人単位を数えるほど関係は深い。