月別アーカイブ: 2013年8月

『東名高速殺人事件』

山浦弘靖『東名高速殺人事件:特捜ハイウェイ刑事』(光文社文庫 1992)を読む。
1988年のバブル真っ盛りに刊行された本である。出版界も好景気だったのだろう。空中に浮いてしまうようなブースターやオフロードも走れるようにタイヤから爪が出るような改造を施した愛車BMWに乗るハイウェイ刑事が、細菌兵器を密かに密造するグループを追うという内容である。途中10代の少女との危ういシーンがあったり、内閣情報調査室のエリート役人が銃を放ったり、いい感じにぶっ飛んでいて飽きることはなかった。通勤途中のサラリーマンが駅のキオスクなどで手に取って、仕事の疲れを癒すような肩の凝らない物語である。
著者には申し訳ないが、こんな暇つぶしだけの本が堂々とシリーズで出版される時代があったことに驚きを感じてしまう。こうした通勤途中の大人向けの娯楽小説が売れる時代はもう来ないのだろうか。

『伊勢神宮』

所功『伊勢神宮』(講談社学術文庫 1993)を読む。
「神殿の原型」「鎮座の由来」「恒例の祭祀」「遷宮の歴史」「遷宮の概要」「神宮の英知」の6章立てで、伊勢神宮の遷宮にまつわる歴史や意義について分かりやすくまとめられている。伊勢神宮というと、忌み嫌うべき「皇国史観」や「神国思想」の権化といった印象が強く、これまで触れるのを避けてきた。
しかし、いくつか本を読んでみて分かったことは、伊勢神宮は、人間の諸生活の全てが自然の恵みとそれを丁寧に扱う人間たちの働きがあってこそ成り立つものだという自明のことを再確認する場であるということだ。伊勢神宮では千数百年にわたり、「大御饌(おおみけ)」と呼ばれ、一日に2度播種から収穫まで全て手作りの食事が神々に振舞われる。また20年に一度、8年近い年月をかけてほとんどの宮殿が数百メートル離れた別の場所に新しく建てられる。その際には材料の一つ一つが自然から与えられることに感謝をし、また、それらが船や人の手を経て神宮まで運び込まれることに感謝の意を表した祭儀が執り行われる。遷宮に伴って8年間で22回もの祭儀が行われるのだ。
天皇の祖霊が奉られている神社ということで、戦争賛美や神風特攻隊の象徴のように感じていた。しかし、それは伊勢神宮建立後の歪んだ摂関政治や国体思想のバイアスであって、伊勢神宮そのものは、心身を清めることで、太陽や自然、そして自分を支えてくれる人たちへの感謝の気持ちを高めていく精神的な場所なのである。

日本語を母語としない子どもと保護者の高校進学ガイダンス

本日の午後、大宮ソニックシティで開かれた、「日本語を母語としない子どもと保護者の高校進学ガイダンス」に参加した。
日本語が分からない保護者や、日本に来て日が浅い子どもたちから、日本の高校受験の仕組みや、高校での生活などについて相談を受けた。
中には日本生まれなのだが日本の小中学校に通っていない事例の相談や、日本の学校に通っているにも関わらず日本国籍が取得できずに本国へ強制送還されてしまう話など伺った。
近年、大学では国際教養だの、異文化理解だの、グローバル化する政治や経済の現場を学ぶ目的の学部学科が増えている。しかし、日本国内、そしてここ埼玉県内でも外国籍の住人が増えてきている。そうした日本生まれの日本国籍取得者以外でもきちんと公教育や住民サービスを受けられる形を作っていくことも、国際教養や異文化理解が包摂していく分野である。

2013saitama 県内ガイダンスチラシ

外国から日本に来た子どもたちにとって、高校進学は将来日本国内で就職し自立した生活を送る上で大変重要です。
そこで、埼玉県国際交流協会は県と共同で、8月4日(土)に「日本語を母語としない子どもと保護者の高校進学ガイダンス」を開催します。
ガイダンスでは、日本語が十分できない子どもと保護者のために、英語・中国語など8か国語の通訳を用意し、高校生活や入学試験スケジュールについて説明します。
また、参加者は直接高校の先生から学校の説明を聞き、質問することもできます。日本での高校進学を考えている外国から来た子どもや保護者の皆様の参加をお待ちしています。
●主な実施概要
1 日 時  8月4日(土) 13:30~16:30(受付13:00~)
2 場 所  大宮ソニックシティビル4階 市民ホール(JR大宮駅西口 徒歩3分)
3 内 容
・オリエンテーション 13:30~14:30
(1)高校進学について(入学試験スケジュール、高校生活、学費などの説明)
(2)高校に進学した先輩たちの体験談
・相談コーナー 14:30~16:30
(1)高校の先生や、高校に進学した先輩などへの相談
(2)奨学金や日本語教室に関する相談

『木の国熊野からの発信』

重栖隆『木の国熊野からの発信:「森林交付税構想」の波紋』(中公新書 1997)を読む。
執筆当時「ニュース和歌山」の編集長を務める著者が、旧本宮町の中山喜弘町長と共に、廃村となってしまった本宮町の「野竹」地区を回りながら、森林に囲まれた山村集落の歴史や意義、これからの可能性について語る。さらに、当時中山本本宮町長が提唱した「森林交付税」によって実現する山村の新しい可能性についても触れている。林業の仕事の実態や、環境についてよく理解できた。

『伊勢志摩殺意の旅』

西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(角川文庫 2006)を読む。
2002年に双葉文庫で刊行された本である。伊勢神宮を占拠しようとする新興宗教カルト集団と十津川警部との対決である。派手なアクションシーンや警部が銃をぶっ放すシーンなどが盛り込まれ、大作映画の原作のような内容となっている。伊勢志摩の紹介もほとんどなく、観光気分を味わう旅情ミステリーとは趣を大分異にしている。