第98回芥川賞受賞作、三浦清宏『長男の出家』(福武書店 1988)を読む。
受賞作の表題作の他、1975年発表の『トンボ眼鏡』と、1966年発表の『黒い海水着』の2編が収録されている。しかし、『長男〜』以外の作品は、作者の経験を元にした私小説風の夫婦の物語であって興味をひくものではなく、途中で読むのをやめてしまった。
表題作の『長男の出家』であるが、ある平凡な家庭の長男が近所の禅寺に出家してしまうという一風変わった設定の小説である。俗世間との絆しを断って修行生活に明け暮れる息子と、本人の希望を尊重しようとする父と、親子の絆の切断を覚悟した母と、家族の絆を求めようとする妹の四者四様の心のすれ違いが上手く描かれていた。息子に自分の過去を投影し、つまらない理詰めで物事を納得しようとする父と、将来まで見越して感情で割り切ろうとする母との対照的な姿に、男親と女親の普遍的な姿が垣間見えてきた。