月別アーカイブ: 2011年12月

「梯子のような橋になりたい

本日の東京新聞に夕刊の文化欄に、『ピョンヤンの夏休み』を刊行した作家柳美里さんのインタビュー記事が掲載されていた。
柳さんは、ここ数年で3回北朝鮮に渡り、北朝鮮に暮らす普通の人々の生活の様子を本に著している。そして、今回の金正日総書記に死去の報道で日朝関係に変化が生じることについて、次のように語る。

国同士の関係は、人の流れができなければなにも変わらないと思いますね。(中略)今回の訃報で、特定のレッテルや感情的な偏見がぶり返すようなことになってほしくないです。

そして、歴史の流れに沿って考える姿勢が必要だというスタンスで次のようにも語る。

例えば、日本が高度成長期だったころの朝鮮半島情勢はどうだったのか。従軍慰安婦問題から拉致問題を時系列で見ると約30年。この間の流れをもっと理解してほしいと思いますね。

確かに1950年代から80年代にかけて、日本はアメリカの核や軍事力の傘下の下で経済成長を突っ走ってきた。しかし、それは朝鮮半島における歪な形での停戦が保たれていたからである。その間の歴史については高校の世界史でも触れることは少ない。
最後に自身のこれからの役割について次のようにまとめる。

堂々たる橋ではなく、梯子みたいな橋のような存在になりたい。橋が固定されて大きくなると、そこが一つの”立ち位置”になる。物書きとしてはそれではいけないと私は思っています。梯子を架けて渡って、いったん外してまた架けて次の場所に行く。そういう存在。判で押したようなステレオタイプの北朝鮮議論をいつまで続けるのか。人は自分の立ち位置によって見方や考え方は違いますが、歩いてみれば、見えるものがまた違ってくるだろうと思います。一つの立場にとどまっているより、歩いて、場所を変えて、見方を変えていくということを選びたいんです。

『旅は靴ずれ、夜は寝酒』

林真理子『旅は靴ずれ、夜は寝酒』(角川文庫 1989)を読む。
主婦と生活社刊行の雑誌『JUNON』の連載された紀行文の文庫化である。林さんの各地への講演旅行を中心に、編集者や現地のガイドなどとの交友録となっている。
暇つぶしに手に取ってみたので、あまり感想はないが、1980年代後半の出版社の羽振りの良さが印象的だった。連載のためならさっと一流ホテルを用意し、編集者が旅行の見送り出迎えに参上する。今では考えられないバブリーな当時の出版業界の一端が垣間見えて面白かった。

TBSラジオを聞いていたら

朝の通勤途中で、TBSラジオを聞いていたら、「人権Today」という番組でNPO法人「ふるさとの会」の理事・滝脇憲さんのインタビューが流れた。学生時代と変わらない語り口で、在宅介護の理念を語っていた。滝脇さんは、立派な施設介護でもなく、手厚い専門家による介護でもなく、「貧乏くさい」手作りの介護にあり方こそが、利用者の気兼ねない生活に必要なのだと述べる。
以下、TBSラジオのWebからの引用です。

放送日:2011年12月24日

『介護が必要なひとり暮らしの高齢者』を支える「ある活動」をTBSラジオの清水栄志ディレクターが取材しました。

2005年に行われた国勢調査によりますとひとり暮らし世帯のほぼ4人に1人が65歳以上の高齢者です。そして、国立社会保障・人口問題研究所は2030年にはひとり暮らしの世帯の4割が高齢者になると推計しています。こうした見通しの中、『ひとり暮らしで介護が必要な高齢者』を支えるという試みを続けている団体があります。
NPO法人「ふるさとの会」の理事・滝脇憲さんはこう仰います。

【滝脇さん】
「高齢になっていった時に、『要介護になったら介護施設に行ったら良いじゃないか』という向きもあるが、施設に入るとどうしても遠方になってしまう。年をとって縁もゆかりもないところに行くよりも自分にとってなじみの地域で暮らしたいと思う人が多かったのでその想いをなんとか実現できるように手伝いたい。」

『慣れないところで暮らす』よりは『慣れ親しんだところで暮らす』方が良いという考え方なんです。この「ふるさとの会」は低所得者を対象に活動を続けていてこれまでホームレスや精神障害者を受け入れる取り組みなどをしてきたんですが、そのノウハウを活かして10数年前から介護の必要なひとり暮らしの高齢者」をサポートする取り組みをしています。
先ほどの滝脇さんはこう話しています。

【滝脇さん】
「ごはんを食べていてむせてしまったらさすってあげるとか、ごはん食べ終わったら薬飲んだ?と聞いてあげたり、安全な生活を見守ってあげたりして、家族に変わるサポートが出来れば、代わりにしてあげる事が出来るのではないか。」

『介護は大変』と構えるのでなく、家族と同じように手伝うことができれば一人暮らしをすることはできるんじゃないか、ということなんです。実際に支援を受けている方に話をききました。

【支援を受けている方】
僕は今、肺気腫で介護を受けているがそれまでは施設に居て動けたけど、今は全然動けなくて頼りは『ふるさとさん』だけだった。ちょっと遠いところに買い物に行くとか、銀行に一緒行ってもらっている。体が丈夫なら一人暮らししてもいいけど、体が動かなくなってしまったから、助かっている。

『ちょっと散歩に行きたい』とか『買い物に行きたい』といったことはヘルパーさんや介護士さんには、契約上の問題や金銭面などの問題があって頼めないんです。お金の負担は支援の受け方でも様々ですが、一番多い人でも月に1,000円。行政からの支援を受けているので比較的軽い負担で済んでいます。今年10月現在で757人がサポートを受けていて「ふるさとの会」のスタッフ1人が8人くらい手助けしている計算になります。
今後の課題について滝脇はこう話しています。

【滝脇さん】
「一民間非営利団体がやっている事というのは、困っている人に知って頂く事が役所のようにいかないところがあるので、公的な活動であるという側面を持たせていく事が必要ではないかと思う。」

『もっと活動を広く知らせないといけない』ということなんです。
支援を受けている男性も、役所からの話でこの「ふるさとの会の試み」を知ったと話していました。「どう知らせるか」というのも大切ですね。日常生活をなるべく変えないようにしてどうサポートするか。
この「在宅介護」は大きな問題であり、課題がまだまだあると仰っていました。

特定非営利活動法人自立支援センターふるさとの会
http://www.hurusatonokai.jp/

『源氏物語 千年の謎』

子どもをお風呂に入れてから、久しぶりにララガーデンへ出かけた。
鶴橋康夫監督、生田斗真・中谷美紀主演『源氏物語 千年の謎』(2011 東宝)を観に行った。
『源氏物語』誕生の秘密が明かされ、新たな紫式部像が展開されるとの宣伝文句であったが、ただ源氏の粗筋を辿っただけの物足りない作品であった。巻名でいうと第10巻の「賢木」の巻あたりまでである。途中、安倍晴明が伊周の怨霊を退治したり、物語世界に紛れ込んで六条の御息所の生き霊を鎮めるといったSFシーンが挿入されるのは目新しかった。しかし、源氏と六条の御息所との愛情の描き方も不十分だし、藤壷との逢瀬もただ粗筋を映像にしたにすぎず、肝心の紫の上も登場せず、ただ源氏の女難の運命を嘆くという平板な内容に終わっている。
2時間という映画の上映時間の制約上、内容を深めることは難しいだろうと思っていたが、予想通りの期待はずれな作品であった。10年前に観た『千年の恋 ひかる源氏物語』の方がまだ内容盛りだくさんで面白かったように思う。

『悪人』

妻子が寝静まってから、借りてきたDVDで、李相日監督・妻夫木聡・深津恵理主演『悪人』(2010 東宝)を観た。

ここしばらく仕事でバタバタしているが、真ん中と下の子が夜しっかりと寝るようになり、少し気持ち的にはゆっくりしている。久しぶりの映画鑑賞であったが、映画館で観ておけばと後悔のするくらい素晴らしい内容であった。
原作の吉田修一氏の小説は読んでいないので軽々に評せないが、主演だけでなく脇役の俳優の演技も味があり、映画の方が面白いのではなかろうか。

映画を観ながら、多少のアルコールが入った頭で、断片的な感想が浮かんでは消えていった。
人間関係が希薄なこの社会は、誰しもが犯罪者になってしまうのでは。
人間関係が薄い世の中では、直接的に性器をこすりつけあうセックスや、直接的に相手の肉体を傷つける暴力でしか、人間存在を感じられないのでは。
生きる意味がぼやけてしまっている社会では、死の意味しか見いだし得ないのでは。

[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=g9n_STl-9Cg[/youtube]