夏の14冊目
増田明利『今日、ホームレスになった:13のサラリーマン転落人生』(新風舎 2006)を読む。
バブル崩壊後、10年にも及んだ不景気、またそれに伴う就職難、苛烈なリストラ、公共投資削減、金融緩和といった煽りを受けたサラリーマンの転落人生を追う。平均以上の収入を得て、家族を養っていたサラリーマンが一転ホームレスになってしまったのは、決して彼らが社会人としての欠陥を持っていたとか、重大な過ちを犯したからではない。倒産、リストラといった不運に加え、早期退職や独立開業などの些細なタイミングミスが重なると、現在の日本ではすぐに路上生活行きになってしまうのである。
今回のケースは全て男性であったが、男性にとって失業は単に収入を失うだけでなく、人間性そのものを否定されるということである。失業のショックで再就職もうまく行かず、また再就職してもこれまで築いてきた自尊心が傷つけられ、家庭生活でも自信を失い、やがては自棄的な生活へと落ち込んでいく。いかに仕事というものが人間の本質に結びついているか、色々と考えることも多かった。
著者はあとがきで次のように述べる。政府や行政、企業経営者の批判までは至らないが、ホームレス問題は対岸の火事ではなく、私たち自身の経済問題であるとの認識を示す。
ホームレスの人たちを見て「自由で気ままな生活はうらやましいよ」とか「義務も責任もないのだから気楽でいいじゃないか」などと言う人がいるが、それは自らが切迫した状況に置かれたことのない者の発言で、ホームレスは常に生命の危険と隣り合わせでぎりぎり生きているのだ。今回、多数のホームレスに話しを聞いたが、彼らの来歴は決して特別ではなかった。今現在の彼らは汚れて悪臭を放ち、みすぼらしく生気のない顔をしているが、現在ではなく過去を見れば、私たちと彼らはまったく同じところにいたのが分かる。世間一般の人びとはホームレスに対して「あの人たちはまともな社会生活のできない欠陥人間なんだ」と異端視し、「ホームレスのような人間と自分は違う」と思いがちであるがそうではないのだ。