痴呆は様々な原因によって,脳の中のいろいろな場所,特に前頭葉,側頭葉,あるいはそのなかの記憶を司る海馬というところが損傷を受けることで症状が出てくる。痴呆そのものは若い人でも起こる可能性があるが,高齢,特に80歳を超えると4〜5人に一人が痴呆症になると言われている。脳の老化と密接に関連して起こる老化性痴呆には大きく分けて次のタイプがある。
脳血管性痴呆
脳血管性痴呆の原因となる病気はいろいろとあるが,もっとも重大なのは,脳梗塞や脳出血の下地となってしまう,脳の動脈が堅く狭くなる脳動脈硬化症である。脳の神経細胞へ酸素や栄養が届かなくなり障害が起きてしまう。脳梗塞や脳出血後の痴呆は,男性に多く,脳の障害がまだら状に起こるのが特徴である。初期段階では物忘れを自覚し,人格は保たれやすいが,些細なことで怒り出したり泣き出したりする感情失禁やせん妄が起こりやすく,しびれや動きの鈍さ,まひなどの行動面での障害を伴うことが多い。症状が動揺しやすく,階段状に進行していく。画像診断で梗塞などの病巣が分かる。危険因子として高血圧,高脂血症,糖尿病,心臓病,肥満,喫煙の習慣,酒の飲みすぎ,ストレスなどが挙げられる。
変性性痴呆
脳の実質の変成により神経細胞が脱落し,脳が萎縮して起こる。アルツハイマー型痴呆はその代表で,ベータプロテインという蛋白がアミロイドという異常蛋白を作り,老人斑というシミを増やし,神経細胞に糸くず状のものが溜まり,大脳皮質の神経細胞が全般的に変性し脱落することで障害が生じる。アルツハイマー型は女性に多く,なだらかに進行するのが特徴である。機能低下が全体的に起こり,物忘れの自覚が失われ,感情表現も乏しくなりがちである。仮性作業や仮性対話が起こりやすく人格が変わることが在る。また異常な言動を起こしやすく,最終的には身体機能も低下して寝たきりになってしまう。MRI画像診断で脳の萎縮状態を診ることができる。
内蔵疾患による痴呆
また,痴呆の症状は脳の病気だけが原因ではない。内蔵の病気に伴って脳症を起こし,痴呆の症状が出ることが在る。例えば,高血圧や糖尿病が悪化して腎臓の機能が低下すると,「尿毒症」を起こして意識障害や痴呆の症状が出ることがある。肝硬変が進行して肝臓の機能が低下すると,血液中にアンモニアなどがたまって脳をおかすことがある。これを肝性脳症という。また,糖尿病で血糖降下薬あるいはインスリンを使用している人では,空腹状態が続いたりして血糖値が下がり過ぎると,意識が朦朧としたり,高齢者では痴呆のような症状が出ることが在る。これを低血糖性脳症という。万が一発作が起こったら,すぐに砂糖や甘いジュースなどで糖分を補うと症状が治まる。
参考文献
小阪憲司「治る痴呆,防げる痴呆」『痴呆症はここまで治る』 主婦と生活社 1998年