社事大のレポートで、非嫡出子の相続分が嫡出子の2分の1とされている民法900条4号但書前段について色々と調べてみた。わずか1行の法文であるが、その合憲性を巡って、当事者のみならず、引いては日本人全体の家族観が問われる興味深い事例である。
95年7月の最高裁において、民法900条4号の但書前段の合憲性に対する判決が下された。多数意見は「現行民法は法律婚主義を採用しているのであるから、本件規定の立法理由にも合理的な根拠がある」として合憲とした。但し、15人の裁判官中、5人が反対意見を述べ、賛成意見中4人の裁判官が立法による解決が望ましいとする補足意見を述べ、裁判官の間でも意見は分かれた。
2003年3月28日の最高裁でもこの件が争われ、5人の裁判官のうち、3名が合憲、2名が違憲の反対意見であった。違憲判断を述べた梶谷・滝井両裁判官は「今日国際化が進み、価値観が多様化して家族の生活の態様も一様でなく、それに応じて両親と子供との関係も様々な変容を受けている状況の下においては、親が婚姻という外形を採ったかどうかというその子自らの力によって決することのできない事情によってその相続分に差異を設けることに格別の合理性を見いだすことは一段と困難となっているのである」とした。更に同年2回の最高裁判決で争われたが、いずれも違憲立法審査権の示唆や反対意見を付記しつつも合憲の判決を下している。
翌2004年10月の最高裁でもこの件が争われ、5人の裁判官の内、2名が反対意見を述べた。反対意見を展開した才口裁判官は次のように述べる。「憲法13条、14条1項は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない旨を規定している。このような憲法の規定に照らすと、憲法は、相続に関する法制度としては、子である以上、男女長幼の別なく、均等に財産を相続することを要求しているものというべきであり、子の社会的身分等を理由として、その法的扱いに区別を設けることは、十分な合理的根拠が存しない限り許されないと解するのが相当である。非嫡出子であることは、自分の意思ではどうにもならない出生により取得する社会的身分である。嫡出子と非嫡出子とを区別し、非嫡出子であることを理由にその相続分を嫡出子のそれの2分の1とすることは、その立法目的が、法律婚の尊重、保護という、それ自体正当なものであるとしても、その目的を実現するための手段として、上記の区別を設けること及び上記数値による区別の大きさについては、十分な合理的根拠が存するものとはいい難い。」
私も才口裁判官の見解に賛成である。94年に日本も批准した子どもの権利条約では子どもの社会的出身や出生によるあらゆる種類の差別を禁止しており、この条約に抵触する民法900条4号但書の早急な改正が求められる。現民法の規定は一夫一婦制の法律婚主義を保護し、子どものは親の専有物であるかのような古い家族観を前提としている。梶谷・滝井裁判官が指摘するシングルマザーや事実婚などの新しい家族像を社会が受け入れるにあたり、子どもは地域や国民全体のものだとする新しい子供観を共有することが求められる。
参考文献
1995年7月5日最高裁判決 判例タイムズ885号83頁
2003年3月28日最高裁判決 判例時報1820号62頁
2004年10月14日最高裁判決 判例時報1884号40頁 法学教室2004年12月291号136頁
東京弁護士会意見書「非嫡出子の相続分差別撤廃に関する意見書―民法900条4号但書改正案―」1991年3月7日