日別アーカイブ: 2005年1月13日

『教科書 社会福祉』

 一番ケ瀬康子監修『教科書 社会福祉』(一橋出版 1997)を読む。
 「教科書」と名打っている通り、高校の教科書そっくりの内容となっている。社会福祉というと、資格やら技術やら極めてプラクティカルな福祉の公的資格というぐらいの認識しかなかった。しかし、社会福祉学はあくまで福祉という実態を変えるために社会を変える、そして世界の平和に寄与貢献すべきものだという一番ケ瀬さんの「教科書」的な解釈が印象に残った。

 生産性や効率性が尊ばれる能力主義の時代になると、いくら努力しても障害を負っているために能力の面で恵まれない人たちは蔑視され、社会から追放されることも少なくなかった。特に、人と人との富や地位を獲得するために競争が激化し、さらに民族と民族、国と国とが利害が対立し、戦争がひんぱんに起こるようになると、「社会的に弱い立場に置かれている人たち」を役に立たないものとして冷遇するようになっていった。戦争は一言で述べるならば、社会福祉を壊滅させ、さらには人類存亡の危機を招く悪事であった。

 このように考えてくると、社会福祉―広く捉えれば、誰もが幸福に生きるということ―は世界が平和であってはじめて実現するのだ、ということがわかる。「社会福祉」を学ぶことは「世界の平和を学ぶ」ことに通じるのである。

 正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、戦争と武力による威嚇、武力の行使を永久に放棄して、世界の平和と人類の福祉に貢献することを国是として示した日本国憲法の理念は社会福祉のすすむべき道しるべである。そしてそれを理念として終わらせるのではなく、その理念の具体化をすすめるよき実践者になることが「社会福祉を学ぶ」ことの本当の意味なのである。

 これまでは、多くのものを生産し、身近にものがふえ、便利になり、贅沢に暮らしていけるようになることが「進歩」だと考えられていたのであるが、その裏では「社会的に弱い立場に置かれている人たち」がますます息苦しさを増していたことを見逃してはならない。これからは共生・共育のもとで「社会的に弱い立場に置かれる人たち」がいらなくなり、誰もが未来に明るい希望をもって幸福に生きていける社会になっていくことが真の「進歩」である、という認識をもつことが必要である。