サミュエル・ハンチントン『文明の衝突と21世紀の日本』(集英社新書 2000)を読む。
1993年に出版された「文明の衝突」の抜粋と1998年に東京で行われた講演「二十一世紀における日本の選択ー世界政治の再構成」がまとめられている。ハーバード大教授であり、ケネディ政権とカーター政権においてはホワイトハウスで外交・安全保障の政策立案に関わった経歴を持つハンチントン氏の名前と「文明の衝突」という論文名はよく目にしていたが、実際読むのは初めてだった。「文明の衝突」というありきたりな邦訳のため、読まないうちから「そんなの当たり前じゃないか」と高をくくっていたためである。しかし読んでみると予備校の参考書を読んでいるようで、ところどころほんまかいなと思う箇所もあるが、「ハンチントン理論」通りに各地の紛争の背景を説明されると目から鱗が落ちるように国際政治が「分かった」ような気がした。
ハンチントン氏は2極の冷戦構造が崩壊した後、世界の慈悲深い親切な支配者を任じているアメリカといくつかの大国からなる「一極・多極」世界であると分析する。そして世界を7もしくは8つの地域文明に分け、超大国アメリカとそれぞれの文明の地域大国(独仏、ロシア、中国、インド、インドネシア、イラン、イスラエル、ナイジェリア、南アフリカ、ブラジル、日本)との複雑な駆け引きのもとに世界が動いていると論じる。前記の地域大国に取ってアメリカは政治、経済、文化、軍事と様々な面で介入してくるやっかいものである。しかしそれぞれの地域を支配していく後ろ盾としてアメリカとの同盟、協調路線は欠かせない。つまり地域大国はアメリカ追随か、拒否かを様々な局面で試されることになる。皮肉なことに、アメリカ政府はそうした地域大国の政策のぶれを逆手にとって、地域のナンバー2の大国と同盟関係を結んで地域大国を封じ込めようとする。つまりEUにおける独仏の支配強化を憂うイギリスと、ロシアの拡大を苦慮するウクライナと、そして中国の強大化を懸念する日本、韓国と、インドと争っているパキスタンと、ブラジルの経済発展を懸念するアルゼンチンと、またイランやイラクの石油独占を止めるためにサウジアラビア、エジプトといった地域の2番手の国々と軍事同盟、経済協力体制を構築している。そしてアメリカはこれらの2番手の国々の軍事力を「国際貢献」の名の下に活用し、地域大国へ圧力をかけているというのだ。今回のイラクへの多国籍軍の参加についても、中国や独仏ロシアといった大国への牽制の意味合いが含まれている、いやそもそもイラクへの戦争自体がまやかしであったことは銘記しておくべきだろう。賛否あるだろうが、是非一読をオススメしたい。