月別アーカイブ: 2002年2月

『キッチン』

花粉症がひどくなってきたので、外に出るのが少々つらい。洗濯物を干しただけで目がかゆくなってしまう。

吉本ばなな『キッチン』(福武文庫)を読んだ。
「希薄化された家族像」といったような主題がふと思い浮かぶが、あれこれと評論を差し挟むのは無粋であろう。
作者のゼミの担当であった曽根博義氏の、作者と大宰治との共通点の指摘が興味深かった。大学時代に理解に苦しんだ源氏物語における「草子地」論のような小難しい文学論理も、曽根氏のように分かりやすく説明してくれたらよかったのに。

語り手の「私」は、作中人物の「私」と読者の間に立って、一方で作中人物の「私」に寄り添って物語を展開しながら、他方、しばしば、その物語の世界から、我を忘れて物語を追いかけている読者の方に向き直って、読者に親しく話しかけ、物語と読者の間をうまくつないでくれるのだ。作中人物がじかに語りかけるのではない。同じ「私」でも、作中人物の「私」とはその都度微妙に区別され、作中人物と物語の世界を十分に客観化している語り手の「私」が、その仲立ちをしてくれるのである。

WorkCentre1150j

WorkCentre1150j

昨年の11月の末にPowerBook G4を購入し、自宅・勤務先でフルに使い始めて3ヶ月が経過した。
ADSLに加入し時間を気にする必要がなくなったこともあるが、昼も夜もパソコンに向かってしまい少し中毒気味である。現在、OSはマックOSの9.2.2を使用しているが、時折生じるフリーズには手を焼いてしまう。特に印刷しようと思うとパソコンが止まってしまう。プリンターのドライバー自体の出来が悪いのか、もしくは、富士ゼロックスのプリンターとの相性が悪いのか、トラブルが絶えず、印刷するのが嫌になってしまう。
昨年までは、MacOS10を使用していたのだが、アプリケーションや周辺機器の対応の遅れに我慢できずに先日9.2に戻したのだ。しかし、やはりノートパソコンの使用においては、メモリーやバッテリー管理含めてOS10に軍配が上がる。

『醜い韓国人』

朴泰赫『醜い韓国人:われわれは「日帝支配」を叫びすぎる』(光文社 1993)を読む。
10年程前に論争になった本である。日韓を巡る意識の変化を探るため手にとってみた。
日韓ワールドカップ共催を間近に控えた現在、内容はたいして大騒ぎするまでもないと考える。こういう見方があってもよいというものだ。ただし戦前のアジア侵略を半ば肯定する姿勢ははっきりと理論武装をして批判しなくてはならない。日帝侵略うんぬんよりも中国の悪影響に染まってしまった李朝の歴史を振り返る部分でかなりの記述が割かれていた。
新しい歴史教科書のようなこの類いの本はこれからも大量に発生してくるのであろう。そうした際、いたづらな攻撃的なケチつけに満足してしまいがちである。大切なことは自己に対する批判意識に根差した批判精神である。私自身、19世紀前半から後半にかけての歴史の流れを勉強する必要がある。

『悪問だらけの大学入試』

河合塾職員丹羽健夫『悪問だらけの大学入試〜河合塾から見えること』(集英社新書 2000)を読む。
端的に言えば、大学入試を批判し、高校現場の困惑を指摘することで、相対的に予備校を持ち上げようという内容だ。
大学入試においては問題作成を担ってきた教養部の解体、少子化による入試日程の多様化によって問題の質が明らかに落ちているそうだ。確かに著者が指摘するように、某私立大学の日本史の問題は特にひどい。

問2栄西のもたらした茶の製法の最初の工法は何か。
a:蒸した  b:太陽光線にさらした  c:火にあぶった  d:釜で炒った
問3 問2の工程の次に行われるう製茶の工程は何か。
a:揉捻する  b:そのまま乾かす  c:細かく切る  d:発酵させる
問4 栄西のもたらした茶の種類は何か。
a:煎茶  b:玉露  c:番茶  d:抹茶

どこの大学の問題かは知らないが、ほとんど、クイズ番組のカルト問題のような出題である。
また、看護系専門学校の入試問題もかなりひどい代物で、国語の入試など便覧等を使ってテキトーに作ったような問題ばかりだ。しかし、この予備校関係者の指摘する問題は大学入試の改善だけでは簡単に片付かない。一条校の流動化、学歴階層社会、学問のあり方など様々な問題が絡んでくる。
4月より週5日制が導入されるとまた予備校に求められるものも変わってくるだろう。その時大手予備校はどのような対応をとるのだろうか。

『肩ごしの恋人』『だんだんあなたが遠くなる』

先週直木賞をとった唯川恵『肩ごしの恋人』(マガジンハウス)、『だんだんあなたが遠くなる』(大和書房)を読んだ。
「このまま30越えたらどうしよう」っていう不安と向き合う20代後半の女性の姿が印象的だった。20代後半という20代前半に比べて成長しているんだという自信と、ピークは過ぎたのかなっていう不安が交錯する微妙な年令の主人公が等身大で登場する物語である。トレンディドラマの小説化といったら身もふたもないが、晩婚化、仕事以外の生き甲斐探し、人材派遣等の労働力の流動化、家族関係の齟齬など現代日本の若者を巡る状況を踏まえて舞台設定がなされているので、自らの現在を考えながら読むことができる。しかし、15歳の崇君と27歳のるり子さんの場面は読んでて照れてしまった……。

るり子に抱きつかれたまま、崇はしばらくじっとしていた。るり子は焦れて、もっともっと身体を押しつける。やがて、ゆったりした口調で崇は言った「るり子さんは今、抱かれたいんじゃないと思うな。きっと抱きしめられたいんだ」