読書」カテゴリーアーカイブ

『中大兄皇子伝』

黒岩重吾『中大兄皇子伝』(講談社 2001)上下巻を読む。
史実に忠実に構成されており、読み応え十分であった。
中大兄皇子というと、中臣鎌足と組んで蘇我蝦夷・入鹿父子を倒し、大化の改新を成し遂げた人物として知られる。しかし、あまり細かいことは分からず、中央集権国家体制を構築しようと試み、弟の大海人皇子と子の大友皇子が壬申の乱で対立したという知識のレベルで留まっていた。

黒岩氏の解釈によると、中大兄皇子は高向玄理や僧旻、南淵請安らから中国や朝鮮の律令政治を学ぶことで、蘇我蝦夷や入鹿父子の豪族政治を廃し、天皇を中心とした官職制度を整備しようと奮闘する。しかし、公地公民という言うなれば共産主義に近い制度を導入しようと計画したために、守旧派の抵抗を生む。そのため改革に後ろ向きな勢力をどんどんと粛清していく。そして母親の皇極(斉明)天皇や叔父の孝徳天皇を傀儡として、皇太子という融通のきく立場で中臣鎌足と共に内政・外政にあたっていく。皇太子の時期が長く、天皇の位には3年間しか就いていない。また、外交は苦手で、いつか唐や新羅が攻めてくるかもしれないと、近江の大津宮に遷都する。一方、弟の大海人皇子は大らかな性格で新羅との交渉にも自信をもっとおり、戦争を敬遠したい官僚の支持を集めていく。そうした外交政策による違いが、天智天皇と大海人皇子の亀裂を生じさせる。

政治家にとって、官僚制度改革と外交が大きなハードルであるというのは当時も現在も変わらないものである。

『野原ひろしの名言』

大山くまお『野原ひろしの名言』(双葉社 2014)を読む。
『クレヨンしんちゃん』のTVアニメ、映画、コミックから厳選した、野原家の父ちゃんの公式名言集である。玉石混交だったが、印象に残ったのを3つ。

「おい! 自分の息子が体張ってぶつかってきてんだぞ!! それに応えないで何が父親だ!」

「おせじを言う必要はないけど 相手の良いところを見つけて ほめるってゆうのもひとつの手だぜ」

(しんのすけに「おらはいつになったら女子更衣室に入れるの?」と聞かれて)
「それは『日本の政治はいつ良くなるの?』って聞くようなものだ」

『超高速!参勤交代 リターンズ』

土橋章宏『超高速!参勤交代 リターンズ』(講談社文庫 2016)を一気に読む。
前作『超高速!参勤交代』の続編で多少のちぐはぐ感は残るが、今作もテンポよく、登場人物のキャラクター設定も上手く、途中でページを繰るのを止められなかった。
忍者同士の迫力ある戦闘やドリフを連想させるコミカルなシーン、お色気場面も用意され、更に、いささかテレビドラマ仕立てのキャラを思わせる徳川吉宗(暴れん坊将軍)や大岡忠相(大岡越前守)までも登場し、これまた中年世代を引きつける

また、明暦三年(1657年)の大火以来、現在まで江戸城の天守閣は消失したままとなっているが、これは会津藩初代藩主の保科正之が「天守を再建する費用があるなら焼け出された庶民救済にまわせ」と指示をしたからだと言われている。そうした幕閣の最高権力者であった保科正之と、今作でも悪の限りを尽くす老中松平信祝が対比されている点なども面白い。

本作で解説されていたわけでないが、武士は武士という仕事をおいそれと辞めることができない封建社会制度や、一度も将軍を出すことがなかった徳川御三家の一つである尾張家側の、御三卿を創設した吉宗に対する恨みなどが背景となっている。また、荻生徂徠(古文辞学・蘐園塾)の『政談』(吉宗に献策されている!)の中にある理想的な「武士帰農論」をもテーマ(?)にしており、日本史好きの生徒は深読みして楽しめるのでは。

『風の中の櫻香』

内田康夫『風の中の櫻香』(徳間書店 2010)を読む。
奈良県斑鳩町の法隆寺の東隣りにある中宮寺を舞台に複雑な人間関係が交錯する。中宮寺にある木造菩薩半跏像や、名古屋市千種区にある愛知専門尼僧堂という尼僧を養成する学校など、国宝や歴史文化に纏わる施設も登場し、浅見光彦ワールドを堪能できた。
久しぶりの推理小説であったが、気分転換に良い。

『私が弁護士になるまで』

菊間千乃『私が弁護士になるまで』(文藝春秋 2012)を読む。
タレント本のつもりで気軽に読み始めたが、新司法試験の紹介や司法修習の舞台裏、受験勉強に向けたモチベーションの維持など、かなり真面目な内容となっている。会社を辞め、初受験の司法試験に落ち、かなり追い込まれた状況の中でいかに自分をコントロールしていくか、当時の気持ちを含めて丁寧に書かれており、受験生にもお勧めしたい。また、民事裁判、刑事裁判、検察、弁護の8ヶ月間に渡る司法修習は、一司法修習生の立場で書かれており興味深かった。