『もう一つの満州』

澤地久枝『もう一つの満州』(文藝春秋,1982)を読む。
もう40年以上前の本である。著者の澤地さんは4歳から15歳まで、旧満州の吉林市で過ごしている。そこでの暮らしは決して裕福なものとは言えず、日本人社会の底辺に位置付けられていたのだが、中国人にとっては侵略者として映る。

本書は著者が満州で生活していた当時、中国東北部で活動していた抗日パルチザンの指導者として活躍していた楊靖宇を巡る旅日記となっている。1930〜40年代と1980年代が交錯する展開で読みにくさはあったが、著者の丁寧に歴史を辿る姿勢が印象に残った。満州を足がかりに中国本土への侵略を強める日本軍と蒋介石率いる国民党の両方から迫撃を受けながらも、伸長していった紅軍共産党の歴史が理解できた。タイトルの「もう一つの満州」とは、五族共和とは裏腹の日本の支配の直轄地となった「満州帝国」を意味している。

『十七歳だった!』

原田宗典『十七歳だった!』(集英社文庫,1996)を半分ほど読む。
聞いたことあるようで全く知らない作家の小説である。自身の体験を元にした高校生男子あるあるな青春記となっている。
途中までしか読まなかったが、作者は1959年生まれ、2025年現在66歳である。言葉は悪いが、団塊世代や団塊ジュニア(氷河期)世代のような苦労も知らず、進学も就職も苦労しなかった「しらけ」世代である。小説の世界ではあるが、まだ年平均10%の成長を遂げた高度経済成長の余韻が感じられた頃で、将来に対する不安もなく、今の高校生活を謳歌しようとする世代に特徴的な物語という印象が強く残った。

『地図のない旅なんて!』

大沼一雄『地図のない旅なんて!:地図を読んで旅を二倍楽しむ』(東洋書店,1996)を読む。
著者は、東京高等師範学校地理学科を卒業され、桐朋中・高等学校教諭を経て、定年後は2〜3ヶ月に及ぶ旅に勤しむ地理の達人である。地形図の歴史や見方、著者の研究の旅日記が掲載されている。
著者は出発前に地形図や史料を駆使して、綿密な旅の予習を行っている。著者の旅に対する思いは、Youtubeが普及した現在においても大事なことである。

資料を読むことによって想像力を呼び覚まし、いってみたい気持ちを起こさせるためである。具体的な姿を見てしまうと、現地に行ったときの”驚き”が埋められてしまう。
私は教壇生活時代、修学旅行の事前指導に映画やビデオの利用を頑固なまでに拒否してきた。これは、生徒の第一印象、つまり現場に初めてきたときの”驚き”を大切にしたかったからである。ビデオや映画のような動画は、印象が強烈なものだけに、ことさら利用の仕方を誤まると逆効果になる。注意しないといけない。

『私たちは中国でなにをしたか』

中国帰還者連絡会『私たちは中国でなにをしたか:元日本人戦犯の記録』(三一書房,1987)を読む。
会の詳細は以下の記載に譲るが、戦時中、性欲を満たすために行った自らの残虐な行為に向き合う主体性と、天皇や上官の命令に従ったまでで自分には責任がないという受動性に揺れる元日本人兵士の葛藤が事細かに描かれている。

以下、法政大学国際文化学部鈴木靖研究室のホームページより
https://hosei-ch.xsrv.jp/wp3/?p=831(2025年7月25日参照)

【コラム】中国帰還者連絡会の結成

1950年7月、ソ連のシベリアに抑留されていた日本人捕虜969名が、建国して間もない中国に引き渡されました。彼らが収容されたのは、撫順にある戦犯管理所でした。
捕虜ではなく、戦犯として収容されたことを知った彼らは、ひどく動揺しました。この戦犯管理所は1936年に日本が開設したもので、戦時中は日本の官憲によって多くの中国人政治犯が捕らえられ、命を落とした場所だったからです。

ところがここでの待遇は、シベリアでの過酷な生活とは全く異なるものでした。管理所の職員たちがコーリャンやトウモロコシなどの雑穀を食べる中、戦犯たちには日本の食習慣にあわせて白米が支給され、健康管理のために定期的な検診が行われ、球技の試合や文芸公演、映画鑑賞、各地への参観や旅行などの活動が定期的に催されました。(中略)

1956年6月、特別軍事法廷が設けられ、戦犯の審理が行われました。戦犯の中には自ら死刑を求める請願書を出した者もいましたが、法廷は罪状の重い45名だけを有罪とし、他の897名を不起訴とする判決を下しました。こうして不起訴となった戦犯は翌年日本に帰国し、有罪となった者も、収監中に病死した1名を除き、1964年3月までに全員が帰国できたのです。

しかし帰国後の日本社会は冷たく、罪を認め、戦争を反省した彼らは、中国共産党に「洗脳」された者とみなされ、就職さえ難しく、日本政府へ提出した補償の請求も却下されてしまいました。そうした中、1957年9月、撫順戦犯管理所と太原戦犯管理所から帰国した元戦犯約1000人が連絡会を結成しました。それが中国帰還者連絡会(中帰連)です。

彼らは「人道主義に基づき、過去の罪業を反省し、侵略戦争に反対し、平和を守り、日中両国の友好発展に貢献すること」を目的に、全国各地で講演会を開いたり、元戦犯たちの証言を集めた出版などを行いました。

同会は会員の高齢化により、2002年に解散となりましたが、2006年、埼玉県川越市にNPO中帰連平和記念館が開設されました。

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』

地上波で放映されていた、トム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2023,米)を観た。
前日までに前作の『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018,米)、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015,米)を観ていたので、仲間の関係などは頭に入っていたので、ストーリーは大体追うことができた。

ジャックした衛星からの通信を利用したり、防犯カメラのシステムをハッキングしたりと、最先端の機材を駆使した世界観となっている。しかし、劇中ではナイフを使って組み合ったり、犯人を追いかけてひたすら走ったりと、アナログなシーンがたくさんあった。また、機密情報が入ったメモリーが、一昔前の時限装置付きの爆弾に囲まれていたりと、一見ちぐはぐな感じがあった。敵の大将が巨大コンピューターを操作している姿などは、アニメルパン三世の映画マモーを彷彿させる。

AIの解説
マモーの正体は、アニメ映画『ルパン三世 ルパンVS複製人間』に登場する、自らを神と名乗る男で、クローン技術を駆使して世界を支配しようと企む悪役です。彼は1万年もの間生き続けており、大富豪ハワード・ロックウッドとして世界の富を支配しているとも言われています。

主演のトム・クルーズが50代になっても思いっきり走ってアクションシーンにチャレンジする姿は応援したくなる。現在公開している最新作がシリーズ最後ということなので、近々堪能したいと思う。