『長い長い殺人』

宮部みゆき『長い長い殺人』(光文社 1992)を読む。
『模倣犯』とよく似た作品で,社会にうまく適合できなかったがために,社会への恨みを抱く犯人が,自らの自尊心を守らんがために,殺人を企てるという現代的な理由なき殺人事件である。
ちょうど高校の教科書の定番作品である,自らの才能を信ずるがゆえに社会から離れていきついには虎に変身してしまう男の独白を描いた中島敦の『山月記』の現代版といったところか。犯人の描く社会像があまりに断面的で偏狭的なものであり,またそれゆえに,犯人像が大変に匿名性が高いという現代的な恐怖が基調として流れている。

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