永谷脩『引退への秒読み』(サンドケー出版局 1994)を読む。
永谷さんは、私が毎朝聞いている「森本毅郎スタンバイ」というTBSラジオの番組で毎週ゲストに呼ばれるので、私にとってはなじみ深い人物である。
その彼の「得意分野」であるプロ野球、ゴルフ、相撲に絞って、引退に至るまでの選手の悩み、軋轢、誤算を忌憚なく著している。一度は華々しい称賛を浴びた選手が、やがて30歳はたまた40歳の声を聞き、心身の限界を感じ、引退の二文字を口にするその日が近づいていく舞台裏を詳らかに描く。
プロ野球からは西本聖、落合博満、佐藤義則、江川卓、東尾修、山田久志、江夏豊、ゴルフでは尾崎将司、相撲では霧島一博、千代の富士貢といった人物を採り上げている。しかし、永谷氏は引退を感動ドラマとして塗りたくるようなことはしない。マスコミやコーチへの招聘といった甘言に惑わされず、最後の最後まで現役にこだわり続ける姿こそが本当のプロスポーツ選手だと述べる。佐藤義則や山田久志、千代の富士を讚える一方で、素質だけを頼みにし、すんなりとマウンドを降りた江川卓や定岡正二に対しては手酷い批判を与えている。
主観を多分に交えた文章であり、評価は分かれるであろう。
引退を決意するまでの選手たちの葛藤をみていると、男の引き際は決してカッコいいものではない。どんな姿であろうと現役を続けていることが一番素晴らしいような気がするのである。