三浦正雄『楽しい創作入門』(岩波ジュニア新書 1997)を読む。
執筆当時神奈川県立小田原城内高校(現小田原高校)教諭であった著者が、授業の中で詩や短歌に始まり、物語創作に至るまで、楽しく表現すること、そして、表現させる工夫が紹介されている。
高校生の口語による短歌や俳句、連歌作りや、漢詩の創作、さらには、生徒の好きな歌の詞の一部を改作したり、作詞にチャレンジしてみたり、また、ゴッホやマグリットの名画を観賞してそこから浮かび上がる情景を会話文にしたり、絵本を作ってみたりと、生徒のモチベーションを高めるような仕掛けを、生徒の創作例を交えてライブ感覚で説明されている。『羅生門』だけでなく、竹取物語など古典においても物語の続きを創作することで、古典に対する興味を深める例など、「すぐに使えるものばかり」であった。特に漢詩を創作させるというのは、一見、二の足を踏みがちであるが、文法含めて漢文に対する嫌悪感を取り除くよい機会となるかもしれない。
著者三浦氏は、創作をすることについて、単に国語の授業の質を向上させるだけでなく、次のような利点があると結論付ける。
現在、日本の社会は自分のことしか関心がないという個人主義の考え方の悪い面が目につくようになりました。人は一人だけで生きているわけではありませんから、さまざまな周囲に人々の考え方、感じ方を理解するための、想像力・思考力・感受性が必要です。「創作すること」を積み重ねていけば、想像力と思考力と感受性、そして内省心が育ちます。さらに、この国際化時代には、自分たちとまったくちがう文化・風土・生活様式の人々や国々を理解しなければなりません。そのためにこれまで以上に想像力が必要となります。また、海外の困難な状況で暮らす人々を思う感受性も大切です。もちろん、「創作すること」は、自分の心の中の世界に形を与えることですから、自分を客観的に内省することにもつながります。