『反貧困と派遣切り:派遣村がめざすもの』

今月は多忙を極め、ホームページの更新は滞ったままである。本も読まず映画も観ず、ただひたすら身を粉にして働いている。また家に帰ったら父親の仕事に圧殺され、土日も私用なのか公用なのか判然としない用事で潰れ、自分を省みる間もない。
以下、先ほど作成した高校生向けの推薦図書の原稿です。

2009年度 読書感想文推薦図書に寄せて

湯浅誠・福島みずほ著『反貧困と派遣切り:派遣村がめざすもの』(七つ森書館 2009年)

今年の冬、「派遣切り」で社宅アパートを追い出され、路頭生活を余儀なくされた人たちに対して、炊き出しや就労斡旋、生活保護請求といった支援活動が、東京のど真ん中にある日比谷公園で連日連夜展開された。新聞やテレビニュースでも大きく取り上げられたので記憶している者もいると思う。本書は、その「年越し派遣村」で村長を務めたNPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長の湯浅誠氏と福島みずほさんの対談集である。
湯浅氏は、十数年前、渋谷駅周辺で暮らす野宿労働者の生活拠点回りや、宮下公園で年末年始の越冬活動、渋谷区役所への福祉行動を共にしたこともある私の学生時分の知人でもある。福島さんは弁護士の経験を生かして、労働や福祉、人権、憲法の問題に積極的に取り組んでいる国会議員である。
「派遣切り」問題の最前線の現場で知り合った二人の批判の矛先は、偽装請負や日雇い派遣の制度上の問題だけに留まらず、「自由」「自助努力」の名のもとによる労働環境の悪化、ふとしたことがきっかけで容易に貧困や自殺に追い込まれていく“溜め”の無い日本社会、そして、会社や家族、地域社会でのネットワークを断ち切り、人間らしさを排除しようとする社会のあり方そのものへ向けられていく。
福島さんが国会議員の立場から、労働派遣法改正や年金制度や雇用保険制度などの社会保障の充実を主張する一方、湯浅氏は一人の市民の立場から、個々人がコツコツやる小さい活動によって問題が可視化されて社会連帯が生まれていくと、市民の運動によって我らが「社会」を作っていく大切さを訴える。
ここ2~3年の小論文で狙われそうなテーマの一つが「格差」である。「グローバル経済」や「金融資本主義」の進展、「聖域なき構造改革」「自己責任」を錦の御旗にした雇用の悪化、「ライフスタイル」の多様化、「財政悪化」による「社会福祉」の行き詰まりなど複合的な要因が絡んで「格差」が生じている。また「格差」が社会にはびこっていくと、「教育の機会均等」が損なわれ、「地域での安全」が脅かされ、「家族関係」の希薄化が生じ、社会そのものへの不満が高まり、人と関わる人間性そのものが失われていく結果に繋がっていく。「格差」というものは、非常に多岐にわたる「絆」を破壊してしまうやっかいものである。
今秋に小論文を控えた3年生だけでなく、現代社会に関心を持つ1・2年生にも是非手にとってもらいたい一冊である。最後に、手に入れやすい新書や文庫、関連するサイトを紹介したい。

関連本
湯浅誠『反貧困‐「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書)
雨宮処凛『排除の空気に唾を吐け』(講談社現代新書)
小林多喜二『蟹工船・党生活者』(新潮文庫)
関連リンク
年越し派遣村ブログ http://blog.goo.ne.jp/hakenmura/
自立生活サポートセンター もやい http://www.moyai.net/
反貧困ネットワーク http://www.k5.dion.ne.jp/~hinky/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください