『うたの旅人Ⅱ』

朝日新聞be編集グループ『うたの旅人Ⅱ』(朝日新聞出版 2010)をパラパラと読む。
朝日新聞に連載されていたシリーズもので、ヒットした曲が歌われた土地を尋ね、作曲者や作詞家が込めた思いを探るという面白い企画である。

私が小学校教員免許の認定試験の課題曲となった唱歌「故郷」を訪ねる企画もあった。「故郷」に歌われた風景は、作詞家高野辰之氏が幼いころをすごした長野県の永江村(現・中野市)だという。だから歌詞に山や川はあっても、海は出てこない。「兎追ひし」とあるが、肉が手に入りにくい時代に大切なタンパク源をとるために、師が兎肉を求めた「兎追い」のことである。

また、山下達郎さんの「クリスマスイブ」であるが、団塊ジュニアの私たちは、「クリスマス=恋人の時間」という発想が刷り込まれている。しかし、コラムニストの堀井憲一郎さんの著書『若者殺しの時代』(講談社現代新書)によると、日本でクリスマスが「恋人たちのもの」と宣言されたのは1983年と明確に言い切っている。日本で初めてシティホテルで過ごすイブの夜を恋人たちに提案したのが、1983年12月に出た雑誌「アンアン」の「クリスマス特集」だったというのだ。1980年代末期には、この特別な夜に過ごす相手もいない青春は恥ずかしいという強迫観念が醸造されることとなり、堀井氏はこうした雰囲気をクリスマス・ファシズム」とさえよび、1990年11月13日号の「週刊プレイボーイ」では「正義のキャンペーン開始 俗悪クリスマスをぶっ潰せ!」という記事さえ登場している。