『ものづくりに生きる』

小関智弘『ものづくりに生きる』(岩波ジュニア新書 1999)をパラパラと読む。
工業高校を卒業して、大田区の町工場で48年間にわたって旋盤工として働いてきた経験が語られる。バブルが弾けた90年代後半に書かれた本なので、あとがきの中で著者は次のように語る。

1990年代はじめの、いわゆるバブルの崩壊以来、手をこまねいていては生きていけないと知った町工場の人たちが、自分の技と知恵を生かして、新しいものづくりをする姿は、わたしには感動的なものであった。
産業界に限らずのことだが、景気回復をねがう声は強い。しかし”回復”のねがいが、あのバブルの時代にもどるものであってはならない。ものづくりする人びとは、そのことをよく知っていて、「あのころはどうかしていた」という。欲まみれ、金まみれの社会はもうたくさんだという。
そういう反省に立って、ものづくりを社会の礎にした、地道で実のある暮らしを望む人が多くなった。こんなふうにして、日本の社会は成熟してゆくのだろうかと、わたしは期待している。

実際は、そのあとにITバブルと円高が来たので、日本でものづくりの機運は高まることはなかったが、手が仕事を覚えているという実感は生きる力に繋がってくるはずである。