下重暁子『ブレーキのない自転車:私のまっすぐ人生論』(東京堂出版 2012)を読む。
NHKのアナウンサーや民放番組のキャスター、コメンテーターを経た後、幅広いジャンルの物書きとなった著者が、突如「日本自転車振興会」会長として活躍することになった6年間の顛末記である。在任中のオートレースとの合併や伊豆ベロドロームの建設、ガールズケイリンの立ち上げなどの裏話が紹介されている。自転車プロパーの話ではなく、JKAの会長も務めた著者自身の考え方や生き方に関するエッセイであり、女性タレントの本を読んでいるような感じであった。つまらない訳ではないが面白くもない本である。但し、東京ドームの地下に400メートルの競輪のバンクが埋まっているというのは初めて知った。
印象に残った一節を紹介しておきたい。
難しいと思うと、私は、必ず自分から出かけて行って交渉相手と直談判することにしていた。組織なのだから、順番があることはわかっているが、情報が伝わっていない事も多いため、私が直接相手のトップと会って話をした。簡単な事務的なことは別として人と人との交渉は、直接会わなければわからない。会って顔を見、言葉のニュアンスを嗅ぎわけることで理解も進み、うまくいく場合が多い。職員にも私は役所にしろ業界内にしろ、外の人にしろ、メールや電話ですませず大切な事は出かけていって直接顔を見て話すことをいつも言っていた。
政治でも野田佳彦総理と谷垣自民党総裁が国会討論の前に会ったとか会わないとか言っていたが、是非はともかく、会って話すことは全ての基本だ。恋人同士が隣に座ってお互いに会話もせずメールを交換している図など不気味でしかない。