岡 並木『都市と交通』(岩波新書,1981)を読む。
執筆当時、著者は朝日新聞の編集委員を務めており、退職後は静岡県立大学国際関係学部や武蔵野女子大学文学部教授を歴任し、交通及び比較都市論を専門としている。
人口増加の1980年代前半の話なので、現在とは様相を異にするが、パリやロンドン、ニューヨーク、また福岡などとの比較から、東京の交通網の弱点を指摘している。著者は徒歩や自転車でホールや寄席などの文化施設へ移動できる豊かな都市生活を提案する。人間がバスやタクシーなど使用せずに「抵抗なく歩ける距離」はおおよそ300~400メートルである。そうした距離を勘案して駅や停留所を設けることで、公共交通機関の利便性が向上する。ミニバスや路面電車、自転車の活用など、環境にやさしいコンパクトシティが提言されており、著者の先見の明が伺われる。