月別アーカイブ: 2020年7月

「イラン旅客機に米軍2機が接近」

本日の東京新聞朝刊に、民間旅客機に米軍の戦闘機が接近し、多数の怪我人が出たとの記事が掲載されていた。しかし、記事を読んでも、米国とイランの政治関係が理解できていないと、なぜ米国がイランに悪事を働くのか分からないであろう。

イランは第2次大戦後、英国企業や米国政府の支援を受けて石油開発を行ってきた。当時のイラン・パフレヴィー朝の国王だったパフレヴィー2世(在1941〜1979)は、米国の意のままに動く人物で、西欧との資源外交を重視するあまり、国民に犠牲を強要する独裁者であった。さすがに国内から反対の声が高まり、1979年にイスラム教の教えに帰るイラン革命が起こった。パフレヴィー2世は米国に亡命し、イラン国内の石油関連施設はすべてイランが接収することとなった。その際に米国大使館員を1年以上にわたって人質とする事件まで起きている。また、翌年1980年には米国側も報復に打って出て、隣国イラクに武器を供与し、イラン・イラク戦争まで誘発している。

他にも書きたいことがあるが、続きは後日。

「アヤソフィアで初の金曜礼拝」

本日の東京新聞朝刊より。
1学期のプレゼンでトルコについて発表した班があり、記事にあるアヤソフィアを取り上げていた。アヤソフィアとはトルコのかつての首都イスタンブールにある世界遺産である。記事の最後にもあるが、ビザンツ帝国時代にギリシャ正教会の総本山として建築され、オスマン帝国征服後は、イスラム教のモスクに改築されている。第一次世界大戦後にオスマン帝国が滅亡すると、後を継いだトルコ共和国では、ヨーロッパとの関係修復を狙い、宗教色を排した博物館と位置付けられてきた建物だ。

現トルコ政権を担うエルドアン大統領は、タカ派的発言を繰り返すことで、一部の国粋主義者の人気を集めてきた人物である。数年前からシリアとの国境付近に滞在するクルド人を掃討しようとシリア国内にまで進攻し、数多くのシリア難民を生み出す結果を招いた。しかし、トルコ国内ではシリア難民をもう受け入れられないと、シリア本国への強制帰還やEUに押し付けるなどの排外主義的政策が目立つようになってきた。

人口8,200万人の大国トルコが、EUとも中東とも距離を取ろうとする中で、人口の大半を占めるイスラム教の一部の支持者を喜ばせる政策の一つが、このアヤソフィアの「モスク化」である。周辺の国に挑発を繰り返す一方で、国内で愛国主義を扇動する手法は、戦前の日本と同じである。親日国で知られる同国が危険な道に進まないことを願う。

『人生ベストテン』

角田光代『人生ベストテン』(講談社 2005)を読む。
2003年か2004年にかけて「小説現代」に連載された短編集である。同じ2005年に「対岸の彼女」で直木賞を受賞してから初の作品となっている。話の内容はどこにでもあるような日常風景なのだが、そこで暮らす登場人物の過去への後悔や現在への不満、未来への不安などが多様に織り込まれ、読むのに疲れる作品であった。純文学を読んでいるような緊張感があった。

「中国総領事館問題 追加の閉鎖『可能性ある』」

本日の東京新聞朝刊より転載。
新聞だけでなくテレビでも米中問題が大きく取り沙汰され、株価や為替も大きく変動しています。米中のいざこざは、トランプ大統領就任後ずっと続いています。流れを押さえていくと、トランプ大統領は、米国の知的財産や特許技術が中国に盗まれているということを一貫して主張しています。

1970年代以降、東アジアや東南アジアの多くの国で、日本や米国の技術を活用した重工業の発展を経済政策の中心に据えていました。アジアNIEsやASEANなどの言葉を聞いたことがあるでしょう。中国は1990年代まで発展途上国だったのですが、安価で豊富な労働力を背景に「世界の工場」として、一気に先進国の仲間入りを果たしてきました。

中国は共産党が管理する国家なので、外資系企業が自由に中国で現地法人を立ち上げることはできません。中国企業と合弁会社を立ち上げる必要があります。また出資比率は50%を超えることはできず、事実上中国政府の言いなりとなってしまいます。それでも他国に比べ各段に人件費などの固定費が安かったため、世界中のブランドが中国に進出してきました。

但し、良いことばかりではありません。撤退の際には、合弁会社として保持していた技術情報の大半は、すべて中国当局に接収されてしまいます。中国はそうした先端技術を国レベルで蓄積していき、IT企業を中心に世界に打って出るようになりました。トランプ大統領の批判もそうした流れの中で理解すると良いでしょう。

トランプ大統領もコロナ禍で失点したので、お得意の「アメリカファースト・中国悪者説」で支持率を回復しようとする魂胆が見え隠れしています。昨年までは貿易が焦点だったのですが、今年に入ってからは、香港やチベット自治区、新疆ウイグル自治区などの政治問題・人権問題で中国政府に揺さぶりをかけています。

米中に挟まれた日本としては、どちらに対しても不必要に加担することなく、批判すべき点があれば、両大国に物を言えるポジションを確保しておきたいところです。韓国や台湾、オーストラリア、ASEAN諸国との緊密な外交戦略が求められるところです。

いよいよ2学期から東南アジアに入っていきますが、教科書の内容をなぞるだけのつまらない授業は止めましょう。米中の確執に割って入る、第3極としての東南アジアの可能性に言及できたらと思います。
また、生徒の皆さんには、大学や専門学校での専攻を問わず、使える英語の勉強をしてください。1日2時間は英語の勉強に充ててください。

 

「南スーダン選手 来夏まで前橋滞在」

本日の東京新聞朝刊に、東京五輪・パラリンピックに向けて長期合宿中の南スーダンの選手を来夏まで落ち着いた環境で練習に取り組ませたいと、前橋市がふるさと納税制度で応援するとの記事が掲載されていた。

前橋市の取り組みに敬意を表したい。というのも南スーダンは2011年に独立した最も新しい国である。場所は地図帳38ページで確認しておきたい。南スーダは「世界でもっとも脆弱な国家ランキング」(2020年度)で、イエメン、ソマリアに次いで世界第3位にランキングされている国である。2011年にスーダンから独立したものの、アビエイ油田を巡って国境が確定されておらず、スーダン軍の攻撃や、反政府組織のテロ活動、政権クーデターが続き、多くの難民が発生している「破綻国家」である。外務省のデータによると、経済成長率は−13.8%(2016年)、物価上昇率は273%(2016年)となっている。一人あたりのGNIはたった390ドルに過ぎない。日本の100分の1である。

日本と国交はあるものの、政治経済における特段の交流はない。だからこそ、スポーツで支えていこうとする前橋市の判断は素晴らしいことだと思う。東京五輪が開催されなくとも、こうした民間交流の成果はいつか思いもよらぬところで実を結ぶはずである。