月別アーカイブ: 2019年11月

『学歴フィルター』

福島直樹『学歴フィルター』(小学館新書 2018)を読む。
薄い新書で一気に読み終えることができた。
興味本位的なタイトルであるが,就職コンサルタントを務める著者が,ネットでの応募段階における学歴フィルターや,インターンシップを活用したリクルートの実態を語る。また,上位大学の学生と低選抜大学(Fランク大学)の学生を比べた時,就活に取り組む姿勢やエントリーシートの中身において,明確な差がある点も詳らかにしている。

また,大学の学歴差は本人の能力や努力に帰属するものであり,学歴フィルターは非難するにあたらないという意見もある。著者はそうした意見に対し,教育社会学の観点から,子どもの学力や学歴は親の年収や学歴との相関性が極めて高く,学歴は本人だけの問題ではないと断じる。実際に,日本の偏差値上位5大学と低選抜大学4大学の学生の日本学生支援機構の奨学金受給率の関係を調査したところ,前者は16.9%だが後者は41.2%と倍以上の差が出ている。

形は違えど,学歴フィルターなるものは明治時代から脈々と続いているものであり,すぐに無くなるものではない。著者が最後に,大手企業に限られるが採用結果を見える化する法改正や,就活時期の根本的な改善を提案する。

『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』

下川裕治『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』(新潮文庫 2011)を読む。
かなり厚手の文庫本で読み応えがあった。タイトルにもある通り,ユーラシア大陸を東端のロシアから西端のポルトガルまで,行き当りばったりな鉄道旅行冒険記である。
著者の苦労話よりも,車窓からの風景を描写の方が面白かった。中国の岩石砂漠や中央アジアのとうもろこし畑,ヨーロッパのぶどう畑など,東から西への移動に合わせて農作物も変化していくという点に興味を感じた。

また,途中ロシア南部のチェチェン共和国の独立問題を巡って,隣国のタゲスタン共和国で爆破テロに巻き込まれ,アゼルバイジャンのバクーまでの鉄道移動がストップしてしまう。ローカル鉄道を愛する著者ならではの現地で暮らす住民の視点から国境封鎖やイミグレーションの強化の背景が語られる。

中国の富裕層に合わせて都市の風景が変わっていく新疆ウイグル自治区の中心のウルムチや,トルコとアゼルバイジャンの緊密な関係の裏で,アルメニアとロシアの接近,ヨーロッパ寄りのジョージアの南部にある南オセチアにロシア軍が肩入れする理由,EUに加盟するしか方法がないブルガリアの国情など,読者もローカル電車に揺られながら,ゆっくりと国際情勢について整理することができた。是非他の著作も読んでいきたい。

「『八幡製鉄所』名称にお別れ」

本日の東京新聞夕刊に,1901年に操業を始めた八幡製鉄所の名称がなくなるとの記事が掲載されていた。ちょうど地理Bの授業で扱ったばっかりだったので,少々びっくりした。

八幡製鉄所は日清戦争の賠償金で建設され,中国から鉄鉱石を輸入したり,背後の筑豊炭田が控えているなどの地の利に恵まれ,第二次世界大戦前には日本の鉄鋼生産量の半分以上を製造する国内随一の製鉄所であった。また,記事にもある通り,2015年には重工業の近代化を成し遂げた「明治日本の産業革命遺産」として,世界遺産にも登録されている。

ちなみに世界遺産は国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)に設けられた委員会で選出され,世界文化遺産と世界自然遺産に大別される。 筑波大学の大学院に世界遺産専攻が設置されているほか,世界遺産検定も実施されているので,気になる人は検索してみよう。

「マドリードで代替開催の案」

本日の東京新聞朝刊に,チリのサンティアゴで予定されていたCOP25が国内のデモによる治安の悪化を受け,急遽旧宗主国のスペインのマドリードで開催されるとの記事が掲載されていた。南米の言語は植民地時代の名残で,人口の半数を占めるブラジルはポルトガル語,その他のほとんどの国がスペイン語というのは地理の常識である。しかし,記事にもある通り,旧宗主国のスペインがまだ政治的影響力を持っているとは知らなかった。貿易についても一応チェックしておきたい。

折を見て生徒にも伝えているが,英語,中国語の次に学んでおきたい言語はスペイン語である。4年制大学に進学する生徒は是非スペイン語に触れてほしい。地理の生徒は1学期にプレゼンを行ったが,不思議と南米の国を取り上げる人は少なかった。それだけ,距離的にも心理的にも遠い国のように感じているのかもしれない。地理Aはもう少しで南米に入るが,何か面白いネタはあるだろうか。アディオス。