早川光『歩く楽しむ東京の自然水』(農文協 1988)を読む。
東京都内の湧水や、井戸水を利用した美味しい地酒・豆腐・温泉を巡る探訪記である。
つい数十年前まで、東京でも湧き水や井戸が生活の重要なライフラインとして欠かせないものだったのだと改めて感じた。
現在では都内に降る雨の大半が下水管を流れてしまい、その総量は約1億5千トンにもなるそうだ。その雨水が地下水となり、水道として利用できれば、わざわざ他県にある水源にダムを建造しなくても済むのだ。
また、東京の空気は乾燥しており、年間の平均湿度はアフリカの砂漠地帯よりも低くなっている。これも空気中に湿気を与える地下水が枯渇していることが原因の一つとされている。また乾燥化は、インフルエンザなどの空気伝染するウイルス性の病原菌が感染しやすくなったり、植物の生育環境が変わるため鳥などの動物を含めた全体の生態系の変化も危惧されたりする。
最後に著者は次のように述べる。
東京にはまだこれだけの湧水や名水が残っています。しかしそれらは確実に絶滅に近づいています。おそらく二十一世紀には、都心の湧水のほとんどは姿を消してしまうでしょう。(中略)
数多くの生き物たちは人間に無言の警告を発しています。カワセミが消えカラスばかりが増えている「自然教育園」や、ホタル養殖を始めたときから湧水が減ってゆく公園の姿から、都会の人間が何を学び、悟ってゆくかが重要です。そしてそれを取り巻く自然、地下水そのものも、何かを伝えてくれているはずです。この本を手にしたあなたが、湧水、井戸水、そしてそれに関わるあらゆるものに触れることで、テレビや新聞では得られない重要な情報を獲得されんことを祈ります。