本多静六『私の生活流儀』(実業之日本社 2005)を読む。
著者(1866-1952)は埼玉県菖蒲町に生まれ、東京山林学校(のちの東京大学農学部)を首席で卒業し、「公園の父」とも称され植林・造園・産業振興など多方面で活躍するだけでなく、独自の蓄財投資法と生活哲学を実践した人物として知られる。
1951年に刊行された本の再出版である。戦後の混乱期の中であるが、心身の健康を保つ秘訣や勉強仕事を進めるコツ、利殖法について分かりやすく語られる。証拠金取引の難しさや先物投資のタイミングなど今現在でも通じる話がありびっくりした。
また、健康長寿法についての面白い件を見つけた。
第二は本能欲の節制である。心身の完全なる発達と、経済的自立の目当てがつくまでは結婚を伸ばし、結婚後も夫婦間に節度を設け、真に完全なる夫婦生活を楽しむべきである。この心掛けを失うとたちまち飽満と倦怠を招き、かえって結婚生活の有難味を損し、ひいては大切な人寿をもちぢめる結果となる。節度については各人の体質年齢によって多少異なるものがあろうが、だいたいその極限は結婚後一週間目くらいから、二−三十代は月八回以下、四−五十代は月六回以下、六−七十代は月四回以下、八−九十代は月二−三回以下が適度なように思われる。(中略)老衰に従う自然の消滅は差し支えないが、あるものを強いて極度に抑制するのは不自然で、かつ有害、賛成し兼ねるものといわなければならぬ。まして、薬剤その他不自然な方法で、促進をはかるなぞはもっての他である。この意味で、私は老人高齢者の再婚にあえて反対しない。
これなど、ネットのコラムにあっても全く不思議ではない内容である。
戦中から戦後にかけて莫大な財産を築く一方で、東京農科大学の定年退官を期に全財産を匿名で寄付し、370冊あまりの著作をも残したという。どこまでもスケールのデカい不思議な魅力のある人物である。