山井和則『体験ルポ 世界の高齢者福祉』(岩波新書 1991)をパラパラと読む。
これも社事大のレポートを書く際に購入した本で、本棚整理の一環で手に取ってみた。
イギリス、アメリカ、スウェーデン、デンマーク、シンガポールの高齢者施設での実習体験がまとめられている。
松下政経塾での研究という性格上、総じて、他国の充実した福祉に比べ、日本の政治や行政、国民意識の貧困さを指摘するという論調になっている。一方で、著者は、家族が親身になって面倒をみる暖かい介護が主流の日本に比べ、高齢者自身にも自立を求め、行政や民間の福祉サービスに全面的に移行していこうとするヨーロッパのやり方にも疑問を呈している。
最後に著者は次のように述べる。
これからは「日本の伝統的な家族扶助を壊さないためにも、公的福祉の充実が必要」と考えるべきではないか。(中略)
お年寄りに優しい気持ちだけでは、高齢化問題は解決できない。その敬老の心を形にした「制度」が必要だ。「寝たきり大国」は、ほかでもない「家族愛・忍耐の美学」に頼る「根性」福祉の限界を如実に語っている。
(中略)ヨーロッパの福祉制度を参考にしながら、日本人の家族愛と敬老の心を「制度」という形のあるものにすることができれば、私は日本が世界一お年寄りが暮らしやすい社会になると信じている。